株式投資とその周辺

初心者の勉強記録です

ふりかえり:2021 仕事編

 2021年の大きな出来事は3つ。職場の移動、恋活の終了、株式投資への没頭。職場の移動について、2021/1-3は600床級の大病院の救急科研修をしていた。新年度となり、100-200床の小病院の内科研修に勤務先が変更となった。

 これまで後期研修以降では医学的な指導を受けることはほとんどなく、自身でガイドラインやdynamed plusを引いて勝手に実践していくような状態で、大規模病院での研修では医学的な指導やdiscussionがあって新鮮だった。私は中規模病院の総合診療科の所属であり、そしてそこはどちらかというと指導医メンバーも家庭医療よりの人々が多かった。したがって、不明熱ハンターや意味不明の疾患の診断家はおらず、その一方で環境的には僻地の唯一の総合病院であったのでいったんは色々な初診・救急患者がその病院に来るためにそういった病院総合診療医的な仕事や内科救急医としての仕事も求められていた。飛び道具的なものは今後自分で扱う予定はないまでも一般重症患者の診療について標準化された管理を自分ができているのかイマイチよく分からないこともあり、3か月間の救命センターでの救急科研修は有意義だった。

 小病院研修になると、不足する点が多々あり自分にとっての普通の診療を行うことに難渋した。例えばアンチバイオグラムが存在しないので、抗菌薬はメクラで行くしかなかった。(例えば尿路感染症を疑ってグラム染色で腸内細菌科細菌らしいGNRが見えている場合でも、ESBLがどの程度この地域ででるのか不明で初手からカバーするべきか不明だった。今も不明である。→とりあえずCMZを初期治療にしている、など。そもそも最近はもう自分でグラム染色自体をしなくなった。それは尿路感染という病名がついているが本質的には老衰だという状況があまりに多いからである。)またある時にはインスリン分泌がほぼ枯渇したような高齢患者の病棟での血糖コントロールについても、朝・昼・夕で異なる値をスケールで使用することができなかった。(大体朝>夕>昼の順にBolusの必要量が多くなることが多いと思うのだが後に固定うちにすることを念頭に食事毎に必要なbolusと食後に高血糖の補正のための即効型の注射をしたいところを、毎日7検するのも負担になると考えて、食前のインスリン注射で食前の高血糖の補正と食事による血糖上昇分の補正を合わせて行うようにすることがこれまで多かったのだが、それだと各食毎にスケールが変わってしまうために対応が困難とされた。)他には、持参薬の終わる日数がバラバラであった場合に指示簿に持参薬継続と記載してあっても主治医が処方忘れするとしばらく内服がストップしてから連絡が来ることがままあった。これまで明らかな定期処方の抜けは代行で薬剤師さんの方で入力してくれることが多い環境にいて(甘えだと言えばそうだけど)必要な処方が抜けていても自分が気が付かないとずっと内服しないまま過ぎていくというシチュエーションがADHD傾向の強い自分にとってかなり大変であった。20人前後の病棟受け持ち患者がいて、その誰もがポリファーマシーで100種類以上のバラバラに終わるそれぞれの薬剤を把握するのは不可能だと思う。さらにせん妄に対して抗精神病薬を使用すると薬局から不適切な使用であると連絡が来ることもあった。何なら医局での会議で最近使用が増えていて控えるべきとまでお達しがでた。せん妄と言えばそのほかに、せん妄の不穏時の指示が第一世代抗ヒスタミン薬が頻用されていた。ただでさえ促進因子になりそうで、高齢男性に使って尿閉にでもなったらどうするつもりなのだろう。また、鎮痛・鎮静に関してもひどいもので、挿管されているのに無鎮痛・無鎮静で患者が苦しむ姿を夜間病棟で見たこともあった。あまりにむごいと思う。さすがにそこまでではないにしても、鎮静のみで挿管される患者が一般的な状態であった。このあたりは常勤スタッフの問題であったが、外勤の一般内科医の質が極めて低いことも問題であった。初診外来の診察を任されているのに、熱が出ている患者は診ませんと話して常勤医に投げつけてくる医者がいた。質以前の問題である。胃腸炎にルーチンで抗菌薬を処方している医者もいた。(なぜかFOMを好む者が多いが、たまにLVFXがいてサルモネラ菌血症でも疑ったのかなと。)死んでもおかしくない急性腹症を診療所に逆紹介していた医者もいた。また低血糖患者の血糖コントロールを強化したり、緊急性のあるレベルの高K血症に対して維持液を大量に入れてみたり。またある時は生化学の血液検査とCTだけあるいはCBCCRPの血液検査とCTだけといういずれかの組み合わせで1行のカルテだけ書いて救急当番に投げつけてくる医者もいた。他にもいろいろあったけれど、共通するのはそのすべてが万死に値するということだ。

 そういったことに加えて、病棟患者の半分程度が老衰患者であり、目に見えるやりがいがないことも問題だった。医療の質が低くてもアウトカムが変わらない環境であれば、アンチバイオグラムを作るべきだとか、高齢者のせん妄や不眠に対しての指示簿の変更を行うべきだとか、そんなことを言っても仕方がない。そもそも臨床倫理の4分割なんてやってる場合ではなく、目の前の無鎮痛で苦しむ挿管患者を助けるべきではないか……??

 こんな環境であったので、モチベーションを喪失するのは一瞬であったし、むしろ再就職のためにエムスリーキャリアに登録していた。しかしそれでも辞めなかったのはひとつ学年が上の専攻医氏が夜間の主治医への電話の適正利用について看護師さんや医局の間を取り持ってくれたり、また指導医も申し送りもなく1行カルテでダンクシュートしてくる外勤医師に対してせめて申し送りをするようにというルール作りをするなど労働環境が改善されていった状況があったからだった。結局のところ大した熱意のない私は文句は言うものの何かを改善しようと動くほどのやる気もなかった。(しかし、改善するより改善されている職場に転職した方がずっと楽なので仕方がない。)

 良かった点があるとすれば、ある程度急性期~慢性期の定期外来につなげて継続的な診療をできるケースもあった点だ。また、訪問診療の閾値が低い点、療養病床も併設されていたので行き場がないというだけの理由で飯が食べられない限界の寿命高齢者に中心静脈栄養を選択せざるを得ないといったことがなくなった点である。

 来年も引き続き同じ病院で仕事することとなった。業務改善へのモチベーションがあまり上がらないのがネック。なるべく座学の機会も増やして流れ作業に終わらないようにしたい。楽しいだけの仕事なんてなかなかないので仕方がないのかもしれない。お賃金はそこそこ満足しているし。

雨天、日直

 休日になると天気がすぐれない。雨とわかっている日に早起きして紅葉を見に山に行くのも気が進まない。平日は気持ちいい秋晴れを病院の窓から眺めて誰のためになっているのか分からない仕事をしている。

 後期研修医になってからも病院を転々としている。今は4つめの病院で、家庭医療専門医に必要な小病院での研修を兼ねて仕事をしている。2020年4月に病院家庭医という本が出版された。患者のcommon diseaseへの一般的な対応をする小病院のセッティングで仕事をする人々という感じだと思う。家庭医・プライマリケア医などというと、診療所でかかりつけ医をやっている人をイメージしがちだけれど、実際のところ病院家庭医って結構いるよね、ということで作られた書籍らしい。

 ただ、小病院でかかりつけ医として勤務しているのは多くの場合(開業医と同様に)一線を退いた中年以降の医師が多い印象で、大抵は自身が所謂病院家庭医であるという自覚はないだろうし、体系的にプライマリケアを学ぶ機会に恵まれなかった人々で、求められるがままに何となく業務をこなしているのだろうし、またそこに専門性があることなど考えたこともなさそうである。

 実際に私たちが育成される大学病院でもそのあたりの領域の講義を受けた機会はないし、診療所研修をした記憶もない。大学病院の医局に所属している人しか接することはあまりないし、開業医は教授の変わったタイミングとかで後腐れなく脱医局した専門医が何となくやっているくらいの印象しかなかった。

 正常な身体の生理機能を学習し、その一部が破綻したことによる病態生理を知って、その解除方法を勉強するというのが学生時代の授業である。これはかなり自然な流れのようであるが、我々のその後の仕事がその解除可能な原因を解除することにあるというのが暗黙の了解であるために、必然的にここでは「何らかの解除可能な原因をもつ疾患」の学習が重要視されていることは実際に勤務した後にならないとなかなか意識されないように思う。

 実際のところ、3次救急病院にいてもやってくるのは(超)高齢者が多い。救急外来で限界まで具合の悪くなっている超高齢者において解除可能な病態なんてほとんど存在していない。(もちろん誤嚥の原因が過剰に盛られた眠剤であったり、心不全の増悪の原因が認知症独居→怠薬だったりすれば調整のやりようがあるかもしれない。)ただ、多くに場合に超高齢者であれば本当に必要なのは蘇生よりそれ以前の外来で行われるべきだったACPだ。原因は加齢を含む様々なこれまでの生活のリスク因子の積み重ねの結果でしかないことが多く、その場でできることは看取りに向けたソフトランディングについて考えることだけで、手技に喜びを感じられるうちくらいしかやりがいを見つけられなくなってしまう。

 学年が上がるにつれて、救急外来と病棟の往復から、外来のセッティングが増えていくことは自分にとっては良いことだった。救急外来で家族にとっては重大だけれど我々にとっては何の新鮮味もなければ何の未来もない認知症の終末期に飯が食えない時にどうするのかといった話を繰り返したり、病棟で何のために生きているのか分からないミイラみたいな体型のCVC-TPNで生き続け時に喀痰におぼれて定期的に発熱する高齢者を診療したりすることにはほとんど意義を感じられないし、むしろ社会悪であるとすら思っている。誰かがやらなくてはいけないから、やるほかないけれど、誰の幸せにもならない仕事に国のお金と若い地方の労働力をじゃぶじゃぶ浪費しているという確信があった、今も多少はある。

 結局のところ、それらは外来マネジメントの失敗例がメインであったからだと思う。かかりつけ病院でありながら、カルテにサマリーがない。認知症があるのに食事がとれない時に対応について一度も考える場を設定していない。90代になっても寝たきりでも、どこで亡くなりたいのかといった話に触れられていない。そういった哀れな者たちばかりを見る機会が多いからだ。

 

 解除可能な原因がないこと、根本的な解決が図れないことよりも診療する側にとっての苦痛というのは、できたはずだったことができなかった状態で放置されてるという認識にある。

 今日は日直なので、雨だけれどもどうせ外出もできないので気にならない。雨であることを嘆いても天気は変わらないので、晴れの日のうちに有給をとることについて考えるべきなのだ。そういえば先日、ようやく晴れの日曜日の休日となったため、紅葉を見に出かけた。たまにはお出かけしないと、心がふさぎ込んでしまう。

不機嫌さとアイベックスとおしりの話

 休日のデートらしいデート先と言って、混浴露天風呂が真っ先に思い浮かぶのであれば病的だと言われても仕方がないのかもしれない。しかし、雨が降っていると実際に楽しめるところというのは限られてしまう。美術館なんてのは、おしゃれなカップルが行くところであって、私などが行ったところですぐにこれは幼少期の性的トラウマを反映しているなどと評して(これはきっと偏見だが、0年代のオタクは作品を分析するときにすぐにどこかで聞きかじった原著を読んだことも碌にない精神分析的な解釈をしたがるものだからだ)、場をしらけさせてしまうということは容易に想像できる。

 これまでに複数回婚活だが恋活だか分からないデートをしてきた。ある時には高層湿原を20キロメートル散策させて、都会出身者を閉口させた。またある時には飲酒習慣のないインテリ投資銀行勤務マンの前でクラフトビールを大量飲酒して都市と田舎の教育・文化資本の格差、一方で都会的・現代人的な思想がいかに婚活にアンマッチでゆくゆくは実家の家業を継げば良いゴールが見えているデキコンするブルーカラーワーカーの幸福ついて舌鋒するどく論じてlineの連絡先をブロックされた。またある時は初回のデートで温泉旅館に行き、これは性交渉を前提とした会なのかを確認して不可なりとされ駄菓子を作って遊んだこともあった。

 雨の日には不適であるのに消去法的に牧場に行くことが多い。共通の話題がなくても生き物が動いてその感想をお互いに述べることで会話が途絶えることを防ぐ効果が期待できるからだ。そして、山羊が草を食むことについて感想を述べる方が、絵画を見ながら幼少期に解消されなかった性的な葛藤について話し合うよりもはるかにまだそれほど仲の良くない男女の会話として適しているからだ。

www.youtube.com

 山羊といえば、崖を上っている写真や動画をよくみかけてとてもかわいらしい。おしりもぷりぷりしている。と思って調べてみたら、これは(アルプス)アイベックスというやヤギ属の生き物で純粋な所謂ヤギとは違うのかもしれない。乱獲で19世紀に一度姿を消して、その後放たれた個体だけが今はスイス国内にいるという記事を見つけたがwikipediaなので真偽は不明。

 

 電話を出る時にいつも「ありがとうございますー、はいー」と穏やかに話す先輩専攻医氏が、休日夜間の緊急性のない携帯電話への連絡に悩まされているという話をしていた。私の以前いた病院では気分の波が大きい医師がいたが、大体17時を回ると主治医がすでにいないのでと言って主治医がいた時間帯から続いていたイベントなのに当直医の私が病棟なら呼ばれてしまうことも多々あった。また、そういう医師に限ってカルテ記載がほとんどなく経過が不明で対応に難渋することもしばしばであった。

 不機嫌さを外部に表現できる人は仕事が少なくなる。自分の機嫌を自分でとることが大人なのだという言説もある。しかしこれも仕事をしたくない人が他人の気分を害するタイプの自己主張をすることが苦手でまっとうな誰かに仕事を押し付けるためにできた方便なのではないか、という気すらしてしまう。環境に適応的であることの結果が、アイベックスのすがたみたいな愛らしい形質として表現されるのではなくて、職場では他人を不快にすることでしか成立しえないのだとしたら悲しい。

 そういえば、お尻というかおなかというか、あのあたりのぜい肉をラブハンドルなどと呼ぶようだ。私が陸上部で走っている時におけつがぷりぷりしていて走り方が特殊とコメントをいただいたことがあった。わたしはせめてこのこのかわいらしい形質で不機嫌さなく仕事が減れば良いと思う。もっと無能っぽくふるまうなどか? 昔からゾンビ映画でやってはいけないことをするのは金髪の巨乳(で、最初に死ぬのはナードの主人公をいじめていたアメフト選手)と決まっているのだから。ラブハンドルが私を幸福に導く……。

非専門医の骨粗しょう症診療 薬物療法

 年単位で診療ができる定期外来を持つことができるようになった。他の人からの引継ぎ患者もいること、電子カルテ導入が最近であること、心電図やエコー検査所見は電子カルテ端末からいまだに参照できないことなどから過去の経過をまとめることに難渋している。

 どうしても二次救急病院にいると入院診療の対象は超高齢者、アルコール依存症患者がメインになってしまう。健康に暮らしている人が病気になってもすぐに改善するので長らく入院していることはない(IEくらいでは?)。

 外来だとまた話はまた変わってくる。私の苦手意識が強いのはやはり骨粗しょう症診療。第一選択がBPであること、BP(ビスホスホネート)製剤のエビデンスが活性型ビタミンDとCa製剤の投与下での効果であること、数年はBP製剤を使うにしても永遠に使うわけにはいかないことなどを漠然と知っている。しかし、SERMはまだしもテリパラチド、抗RANKL抗体などについてはまったく分からない。フローチャートらしきものも出回っていない。私はここに至って骨粗しょう症診療をしろーとでも最低限できるためのアルゴリズムの作成の必要に迫られた。ざっくりまとめる。

 

主要なガイドラインはJIOS2015、NICE2011、SIGN2015、NOF2014、カナダのガイドラインなどなどあるようで数が多くて憂鬱な気持ちになる。

 

ちなみに、薬物療法で第一選択となっているのはBPだが、エビデンスが豊富でおすすめされているBPですら骨折の一次予防へのエビデンスはあまりない。結局大切なのは転倒予防としてベンゾジアゼピン系薬の減量中止であったり、フレイルへの介入であったり、病棟でのせん妄対策であったりするのかもしれないという気持ちになった。まあ、そうは言ってもね……。

 

・介入の対象

目の前の患者に治療を行うべきかについて脆弱性骨折の既往、ステロイドの全身投与(>7.5mh/day)があれば治療対象として良いとされる。それ以外の外来にきた元気そうな人についての介入として、日本のガイドラインでスクリーニングの対象は示されていない。米国では65歳以上の女性でスクリーニング推奨。スクリーニングの方法として、FRAX(fracture risk assesment tool)や骨密度の測定がある。FRAXはネットでみることができる。骨密度測定はDXAで行う。DXAは腰椎・大腿骨近位部の骨密度を測定して性別ごとの若年成人の平均(YAM ; young adult mean)との比較で行う。注意点は圧迫骨折で実際よりも骨密度が高く測定されてしまうこと。YAM<70%で骨粗しょう症として治療適応。FRAXは日本のガイドラインでは骨折リスク15%/10年以上で治療適応。

https://www.sheffield.ac.uk/FRAX/tool.aspx?country=3

・介入方法

BP製剤:第一選択、長期的に(3-6年)後に中断しても骨折リスク不変、非定型大腿骨骨折増加、MRONJリスク増加あるため3年程度で中止。MRONJ予防として歯科治療が必要なら先に実施しておく。そもそもBP製剤を骨折後早期に開始することで二次予防の効果が高まることもない。日本のガイドラインだと第一選択はアレンドロン酸とリセドロン酸。ベースの論文で活性型ビタミンDとCa補充されているので、これらを追加するか食事からの摂取を促したり、日光浴を勧めても良いかも。25-OH(D)血中濃度測定して<25であればBP製剤の効果がおちるためアルファカルシドール内服。

SERM:椎体骨折↓のエビデンスがある。他はない。第一選択ではないのでBP製剤中止後にスイッチするのはあり。

テリパラチド:二次予防での骨折予防のエビデンスあり。複数のRCTで椎体骨折・非椎体骨折いずれも減少。鎮痛効果もあり。よさそうだけど価格がネック。BP同様にCaと活性型ビタミンD投与中のエビデンスしかないので併用。高Ca血症なりやすいのでデータフォロー。BP製剤が使えない場合や使ってもダメな場合に使うのはあり。

デノスマブ:骨折の一次予防・二次予防にエビデンスあるがBPとの比較はなし。第一選択にならない。高価。やめると骨減少が急速に進むのではじめたらやめない。

 

・効果判定

DXA:どの程度の頻度で行うべきかという回答がとにかくざっくりしている。最小有意変化が期待される感覚で、という感じでそれがわかっているなら薬剤別に一覧にしてくれたらいいじゃないか。測定の誤差(再現性)で補正した有意差が骨量変化の検出限界で、これをLSC(least significant change : そのままだ!)などとかっこよく呼ぶ。

LSC=1.96×(√2)×変動係数(測定精度 腰椎正面で1-2%、大腿骨近位部で1-3%)

と表現されるらしい。このあたりの式の導出方法は知らない。生物統計に詳しい人にきいてくれ。BP製剤は5%前後/2-3年程度、テリパラチドはもう少し良いかもくらい。SEMはもう少し悪いかなくらい。であるので、腰椎正面で撮影しているなら、BP製剤内服であればLSC 2%程度なので年に1回程度は効果判定しても良いかな、となる。SERMなので2年に1回です、というのもなんだかなとなるし、まあ年1回で良いのでは。BPは最初の効果が大きいらしいので初回はもう少し間を狭めてもよさそう。椎体骨折も半年くらいからプラセボと有意差がつくので半年くらいで効果判定して良いのではないか。ただ、DXAで効果なさそうだから効果ないという話でもないようで、結局は骨代謝マーカーでの効果判定もしないわけにはいかない。

代謝マーカー:いろいろあって難しく感じる。日内変動が少なく腎機能の影響を受けにくいのはBAP(骨形成のマーカー)、P1NP(形成)、TRACP-5b(吸収)。選択する治療法別になに調べるのか決まっているが、きまっていなければ、これら3つとucOCあたりを計測で良いんじゃないかと思う。日内変動や腎機能の影響を受けやすいマーカーは使いにくいのでこの3つが無難のように思うし、ucOCはビタミンK補充の必要性を判定するために使用できる。ビタミンK単体での骨折予防効果のエビデンスないので、他剤治療中に効果イマイチでこれがさがっていたら補充というのはreasonableと思う。

ガイドライン上は以下のように治療の効果判定に活かすようにとされている。ビタミンDとかCaだけ内服しています、みたいな人の効果判定はこれらのマーカーではできない。効果判定をした時にあれ奏功していないのでは? となった時の鑑別についてもガイドラインに記載あり。

f:id:butabiyori:20210409223832p:image

勿論病態を理解する上でエキスパートが重視するのはわかるんだけれども、ただじゃあ吸収が亢進しているからBPとか、形成が低下しているからテリパラチドとか、結局値段もかなり違うので、そういう話では現状ではないだろうと思ってしまう。そもそもテリパラチドは第一選択にならないわけで。

だから、もちろん骨吸収↑(TRACP-5b↑)でBP使うとよさそうだねというのがわかっても、骨形成マーカー↓からじゃあすぐにテリパラチド始めましょうか、というとそれも医療経済的に合理的ではない気がする。BPより優れているいかなる証拠もないはずなので。そうなると代謝マーカーの使い方はよくわからなくなってしまう。悩ましい。

 

代謝マーカーと効果判定

効果判定でイマイチだった時
 

 

★まとめ(わたしの思う楽でそれなりのクオリティのルーチン)

スクリーニング対象:

 65歳以上の女性

 男性は諸説あり、やらなくて良い~70歳以上まで

 リスクファクター次第であまりはっきりしたものなし

 

スクリーニング方法:

 FRAXとDXAを実施

 

介入の対象:

 DXAでYAM<70%

 FRAXで骨折リスク15%/10年以上

 脆弱性骨折の既往

 PSL 7.5mg/day以上内服

 

介入方法:

 歯科受診後にBP製剤開始

 ±活性型ビタミンD(25-OH(D)血中濃度<25で内服)

 ±Ca(食事摂取→ダメなら内服)

 BPの使用期間は3年程度。

 BPでダメならテリパラチドorデノスマブ+活性型ビタミンD±Ca

 BPなど使用後の選択肢としてはSERMとかテリパラチドとかデノスマブとか色々

 

効果判定:

 DXA BPで腰椎なら半年~1年くらいに一回 最初は半年くらい

 マーカー:BAP(骨形成)、P1NP(同左)、TRACP-5b(吸収)

  治療前と治療3-6か月でデータフォロー

  BPで開始して骨形成マーカー↓で治療変更することが合理的かどうか不明

  そのあたりはもう整形とかに一度コンサルしてよさそう

PADの話

 夏は糖尿病内科にいた。ちなみに春は腎臓内科で、田舎の基幹病院なので透析患者を主に診療していた。コントロールの悪いDM患者をどちらでも見ることになった。下肢切断に至っている人も多くて、DMがあってASOがあって、下肢壊疽で切断なんてなるともう予後はとてつもなく悪いので、ああ予防医療大切だなの気持ちになる。

 研修医が勉強会の発表役だったのによい症例がないのでなどとのたまった結果として私にオハチが回ってきたのだが、すっかり失念していて、今日は偶然病棟当番でしかも落ち着いている人しか今いないので、仕事時間中に勉強会資料を作ってしまった。けれども上司から命じられた病院オフィシャルの勉強会の資料を作るのは仕事だからこれは問題ないはずである。

 ということでせっかくなら糖尿病性大血管症の話をしようということになった。この糖尿病性大血管症というのは、糖尿病に伴う動脈硬化症のうち脳卒中、虚血性心疾患、抹消動脈疾患を指して言うことの多い語である。糖尿病のガイドラインなどみてみると、最小血管障害に対置される概念としてぼんやりと作られたものなのでなかなか定義が難しいけどとりあえずそんなイメージでオナシャスと書いてあった。

 この手の話で一番やる気がでないのが語の定義の周辺だ。大雑把にまとめると:動脈硬化疾患という大きな疾患群の中に抹消動脈疾患(PAD)、脳血管疾患(CVD)、冠血管疾患(CAD)があり、さらにPADの中で特に下肢についてASOと呼んでいる。さらにASOの中でもFontaine分類Ⅲ度以上・Rutherford分類Ⅱ(細分類4)度以上をCLI:critical limb ischemiaとする。という解釈になるようだ。

 PADの診療を行うためにはまずは症例を適切に拾い上げなくてはならない。PADの検査としてABIが簡便に行うことができ、診断に必須とされている。個人的に少し驚いたのだが、AHA-PADガイドラインではABIを50歳以上の糖尿病患者には年に1回はルーチンで行うことが推奨されており、ABI 0.9以下でPADの検査の診断となる。(ただし1.3以上では動脈の石灰化から血管を十分に圧迫できていないと考えられ、足趾上腕血圧比を追加すると良い。正常値は0.7以上。これは透析患者以外では足趾の動脈の石灰化が稀だから足趾なら大丈夫だよねということで。ただ当院では実施が不可能だから、ABIが1.3以上ならどうしたらよいのかという話になる。エコーでは大腿以遠の血流は評価できるのでそのあたりを組み合わせればよいのではと。もちろん明らかに壊疽とかあればもう造影CT撮影したり、腎機能悪ければMRAで評価することになるだろう。DMでルーチンの検査としてABIを実施した時に無症状だけどABIがむしろ高値になってしまったという時の話なので、それで造影CTとかMRAというのは過剰検査の印象が確かにある。)

 国家試験でも覚えさせられる下肢慢性虚血の重症度分類としてRutherford分類とFontaine分類があり、これらの分類は治療法の決定に用いられる。一般に、Fontaine分類Ⅱ度以下(安静時の痛みはない)・Rutherford分類Ⅰ度以下では非重症虚血肢とされる。この群では、治療の基本はリスク因子の管理、運動療法薬物療法となる。米国内科学会(ACP)の推奨では、すべてのPAD患者にスタチン投与(日本循環器学会のガイドライン(JSC 2015改訂版)ではLDL<120 mg/dL以上でスタチンを投与・目標値は120未満、欧州のガイドライン(ESC 2017)では虚血性心疾患の二次予防と同等の70mg/dl未満)、高血圧がある場合には薬物療法、血糖コントロール、禁煙、フットケア教育、運動習慣、抗血小板療法が強く推奨されている。降圧薬の選択としてはRAS阻害薬でPAD患者における冠虚血性疾患のイベントを減少させる可能性がありACPで弱い推奨となっている。(JCS2015では降圧薬選択よりも140/90mmHg未満に管理することの方が薬剤選択よりも重要との記載あり。)抗血小板療法は心血管イベントや脳卒中、それらによる死亡を減少させるためにアスピリンまたはクロピドグレルが特に有症状例で強く推奨される(ACPの推奨では無症候性に弱い推奨、欧州のガイドラインでは無症候性の下肢虚血でルーチンに抗血小板薬を施行しないとされている。)禁煙も強く勧める必要があり、薬物療法による禁煙指導も検討すべきである。フットケアについて、足潰瘍自体が再発率の高い疾患であり、定期的な足観察が糖尿病患者で非常に重要である。糖尿病性足潰瘍のハイリスク患者として、10年以上の罹病期間、男性、血糖コントロール不良、末梢神経障害、網膜症、糖尿病性腎症、PAD、足潰瘍や壊疽・切断歴が既にある方、足の変形、胼胝・鶏眼、爪の変形が知られている。

 糖尿病などの慢性疾患に伴うPADは非専門医であっても運動療法の推奨や薬物療法など介入できる要素も多く切断となると予後も悪いことから日常診療でのスクリーニングと保存的治療を行えるとよいのだろうなと感じている。ただ、推奨通りに行うと処方薬が多くなってしまうのでなかなか難しい。抗血小板薬が開始になれば当然PPIも開始になるだろうし、高齢者への心血管イベント一次予防のスタチンへのエビデンスは欠けているのにすでに多剤内服している高齢者であればどこまで追加の意義があるのか悩ましい。無症候性の場合や高齢の場合では特に推奨が弱いものやルーチンでの投与が推奨されない治療についてはイキの悪い人であればやらなくて良いのかなと思っている。

 

 

Take Home Message

50歳以上の糖尿病患者にルーチンでPADのスクリーニングとしてABIを年に一回検査する。
PADの診断となったら安静時痛あるか安静時足関節圧が40未満であれば血行再建検討。安静時痛のない場合には以下の保存的加療を行う。
安静時痛がないかつ安静時足関節圧が40以上では非重症なのでリスク因子の管理・運動療法薬物療法:LDL<120mg/dl目標にスタチン、高血圧症の管理(140/90mmHg、RAS阻害薬良いかも)、抗血小板薬(特に有症状例で死亡・血管イベント抑制のためのSAPT:アスピリンまたはクロピドグレル)、禁煙(薬物治療も考慮)、フットケア教育(フットケア外来への紹介も検討:足観察、足の洗浄→乾燥、こたつ・電気毛布・風呂の湯音に注意、靴下の使用、鶏眼・胼胝治療に化学薬品を使わない、皮膚乾燥あれば保湿クリーム使用ただし趾間に使用しない、縫い目のない足にあった靴選び、深爪の禁止、足の外傷・水疱があれば早期受診)、間欠性跛行があれば監視下運動療法(30-45分以上/回、週3日以上、12週間以上に亘って。中等度の痛みで終了。→心臓リハビリの適応になるのでやっている施設なら紹介を検討。)
参考文献:Dynamed Plus、JCS 2015のPADガイドライン、ESC 2017ガイドライン

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数時間でやっつけで書いたので不足点とかこれは間違っているとかあったら詳しい人のコメント欲しいな。あと、これを参考に診療して不利益を被っても筆者は一切の責任を負いません。投資と診療は自己責任で!!!

damage control resuscitationのはなし

救急外来で重症外傷を見る機会に恵まれなかったのは、自分自身が内科系であることや、研修医時代に回った3次救急は大学病院であり、研修医には裁量権が全くなくてただ採血してモニターを貼り付けるだけの仕事をさせられていたからだ。自分の病院ではほとんど一人で救急外来をさばいている二年目の秋頃に行った大学の救急部がそんな感じだったので、当初救急もやりたいなと思っていた私は一気にやる気をなくしてしまった。また、ウォークインで受診した患者への診察が雑で、バイタルが崩れていない患者の中から重症者を見逃さないようにしようという意識が感じられなかった。ERではないから仕方ないのかもしれないが、それならそもそもウォークイン患者を取らなければ良いのだ。結局、蘇生的行為をする際にも研修医に手技は回ってこないし、ICUは救急科ではなく麻酔科が持っているので全身管理の勉強もできず、ここで働くのはないなと思ったのだった。

 さて、普段は輸血がない病院で勤務している関係から、輸血をどのくらいするのかについてはほとんど知識がない。JATECだと1:1:1でRBCとPCとFFPを入れようと書いてあった記憶があるがその程度で、あとは補液の制限、低血圧の許容、ただし頭部外傷だと少し高めの血圧にする、トランサミン投与、くらいを勉強した記憶がほんのりある程度だ。あとは産科救急のコースだと、危機的出血を宣言したら10単位ずつ用意することになっていたなとか。

 補液を制限して低血圧を許容しようとかこの辺りの話はDCR(damage control resuscitation)というくくりで語られるようであった。外傷の教科書を持っていないので、仕方ないからdynamed plusを引くとABC-T(task force for advanced bleeding cared in trauma)とかACS TQIP(American college of surgeons trauma quality improvement program)などというところが作っている目標値が出てきた。以下にまとめる。内容についての批判的な吟味はしないけれど、これは非専門医であればガイドライン通りのことができればとりあえず合格点だと考えているからです。

[DCRの大枠]

出血性ショックでドバドバまだ出ていたり凝固が崩れたりしているようならさっさとdamege control surgeryにつなげる、大量の輸血(MTP:massive transfusion protocol)、低体温を避ける、挿管(適応は下に記載。ショックなら酸素消費↓のために挿管してしまえというのがJATECだったが、上記ガイドラインたちだと微妙に違うのかもしれない)、トランサミン投与、低血圧許容。

[AとBの管理]

ABC-Tの挿管適応:気道閉塞、GCS≦8、、出血性ショック、低換気・低酸素→まあそりゃそうでしょという感じ。PaCO2 35-40 mmHg目標。肺保護換気(6ml/kg)で中等度のPEEPを掛けることを考慮。個人的には前負荷↓となって血圧さらに下がりそうだし、あまりPEEP掛けたくない気がするのだが、状況によりけりか。血圧が本当にギリギリの時はやりにくそう。考慮するくらいだから、できるときにはやってみようくらいに解釈した。挿管時はRSIでやることが多いらしいが、筋弛緩使うと挿管失敗した時にいやで最初はロクロニウムなしでいつもトライしてしまう。また麻酔科医じゃないし、失敗してCVCIになった時に外科的気道確保は正直自信がない。鎮静・鎮痛も血圧が下がるのが嫌だよね。新しめのDCRのReview論文(PMID:32252128)にも血圧下がるからショックの時に行う鎮痛鎮静気を付けてね、くらいしか書かれていない。ネオシネジンとかちょろっと打ちして一時的に上げるしかないのかしら。ケタミン+他の鎮静薬とすれば打ち消しあってよいのかもしれないけれど(研修医の頃にケタミンプロポフォールを使っている救急医を見たことがあった)、ケタミンを普段使わないのでちょっと使いにくい。あとは、除脳硬直・瞳孔散大など脳ヘルニアが差し迫っている感じがあれば、過換気にする。頭部外傷なら酸素↑が良いけど、過剰な高酸素(PaO2>487 mmHg)はさすがに良くないし、Hbが正常くらいまで上がったら酸素はもとに戻す。

[Cの管理:どのくらいの低血圧?]

目標値について

■主要な出血源の止血が得られるまではsBP 80-90 mmHg、MAP 50-60 mmHg

■頭部外傷・脊損;50-69歳でsBP>100 mmHg、それ以外の年齢でsBP>110 mmHg. GCS≦8ではMAP≧80 mmHg

[Cの管理:輸血の量は?]

・最初の輸血はRBC:FFP 1:1~2で、O型RBCとAB型FFP投与。

・L/Dが出てきたら以下の目標値を目安に調整

・Hb:7-9 g/dl以上(ABC-T)、10 g/dl以上(ACS-TQIP)

・PT(sec):正常の1.5倍未満(ABC-T)、18秒未満(ACS-TQIP) 

・血小板数:>5万/μl、出血持続していれば10万/μl(ABC-T)、>15万(ACS-TQIP)

・フィブリノーゲン:150 mg/dl以上(ABC-T)、>180 mg/dl(ACS-TQIP)目標にクレオプレシピテートまたはフィブリノーゲン濃縮製剤(fibrinogen concentrate)

RBCFFPはあたためて低体温予防。他には部屋をあたためて、濡れた衣服を脱がせて、あっためるデバイス使うなど。深部体温36-37度くらいが良い。TRALIとTACO(transfusion associated circulatory overload)に注意。(RBCFFPのvolume負荷って膠質液扱いで良いのだっけか)電解質確認。(大量輸血時にBGA確認しながらCaが下がってきたらその度にカルチコール2-4Aくらい入れている印象あるが、だいたいそんなくらいのイメージで良いのかしら。CPAの時高Kでもカルチコール2Aくらいしかいれてないから4Aとかはかなり多く感じてしまうが。)あと、現在いる病院ではフィブリノーゲン低下時にはFFPを入れている。ここのガイドラインで書かれているフィブリノーゲン濃縮製剤やクレオプレシピテートなる製剤を使わないのは保存の問題とかみたい、友達が言ってたよ。ほんとかしらんけど。

[Cの管理:補液の選択]

生食は使っても1000-1500 ml程度まで。できれば酢酸リンゲルとか乳酸リンゲルみたいなものを外液として使う。

[Cの管理:心血管作動薬]

ABC-Tでは低血圧で死にそうな時には上記の補液・輸血に加えて、ノルアドレナリン、デスモプレシン(バソプレシンは記載ないけど別にバソプレシンでもよさそうでは?? 結構使っているイメージがある。敗血症で使う時に0.03 U/minなので20単位×2V/50mlで希釈して2ml/hrくらいで使っているわけで、外傷で使用する時も今いる病院だと大体このくらいの速さで使っている印象。)を使用。心機能低下があれば、DOBやアドレナリン。容量の記載されたガイドラインは存在しないが、Nad 0.05-0.2γ(3mg/50ml 2.5-10ml/hr)、DOB 5-20γ(個人的にはただでさえショックなのにDOBでPafやVTでさらに循環動態破綻が怖くてあまり使いたくなくて、せいぜい使うとしても3γくらいから初めてしまう)、くらいが提案されている。

挿管患者の発熱

★最後にまとめあり

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 外病院にいる。院内の救急/ICU専攻医もちまわりで勉強会の資料をつくらなくてはいけない。COVID-19もはやっていた関係で挿管患者ばかり見ているけれど、みんなVAP(人工呼吸器関連肺炎)になってしまうのはVAPの診断閾値が低いせいなのか、予防がしっかりされていないからなのかよくわからない。思えば標準的VAP診療みたいなものをきちんとやっていない気がする。挿管患者でWBC/CRPが上がった時に喀痰吸引して細菌がいたら全部VAPなのか何なのだろうか。(半)定量培養でどのくらいの細菌量があれば治療すべき/しないべきといった基準があるのだろうか、またP/Fが悪化したことを以って局所所見ありで肺炎というべきなのか、CAPのように画像所見があってはじめて肺炎でそれ以前は気管支炎として経過観察をして良いのかとか。

 結局挿管されている人の多くは呼吸状態がもともと悪いので、VAPが被ったことでもう一段わるくなるという状況以外にも可能性はある。例えば、何かしら他の感染が被ってベースの心不全が増悪すれば循環動態がくずれて肺水腫から呼吸状態が悪化するだろう。だから原則に則った感染症診療をきちんとやろうと思っても臓器特異的な所見から判断がしにくい状況ではあると思う。(原則的に感染症診療は「どんな宿主の(ICU入室中の、DMの、抗がん化学療法中の、ステロイド内服中の、海外でウォーターアクティビティーをしてきた、など)どの臓器に何という細菌がいる(そして臓器と細菌と宿主は大抵連動する)ので、院内のアンチバイオグラムや培養結果を参考にこの抗菌薬をいきます/ドレナージをします」という流れになる)

 主要なガイドラインを検索した。欧州(Internationalと書いてあるが欧州がメインのガイドラインのようだった)、米国、日本。日本はクソなので購入しないと肺炎診療ガイドラインは入手できない(仕方がないので以前に購入した)。

 

 目の前の膿性痰+発熱/炎症反応高値を来す挿管患者を診たときに、これはVAPなのか? という疑問は常にある。「カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)の方です」とERで言う時と同じくらい自信がない。1)の文献の導入部にはVAPの定義が記載されている。曰く、HAP(院内肺炎)は入院48時間以内、VAPも同様に挿管後から48時間以内。VAPは肺炎なので画像検査で肺野に病変を認めなくてはならない。

 臨床医としてのVAPの定義はおそらく上記の通りで良い。しかし、実はVAPの定義にサーベイランス用のものがもう一つ存在する。ここでは画像所見の有無は問われない。サーベイランスするにあたって、それはVAPなのか?? といった微妙な症例(CABG術後でベースの体重から+8kgとかの挿管患者にCXRで「新規の肺炎像があります」ということは難しい)が多いと困ってしまうためにこのような基準なのかもしれない。ただ、この基準についても煩雑で臨床的な実用性には乏しい印象がある。また、dispositionに言及するものでもないようだ。参考までに図を添付しておく。4) このもととなった図はCDC/NHSNのVAPについてのウェブページに記載されている。

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 さて、ではもとの話に戻ろう。目の前の挿管患者の発熱/炎症反応上昇+膿性痰をどうするべきかについて、悩むのは菌量がそう多くない時と画像所見がはっきりしない時である。調べて初めて知ったのだが画像所見のないものはVAT(ventilator-associated tracheobronchitis)と呼ぶそうだ。それではそのVATとやらと診断することがdispositionに影響するのだろうか。市中肺炎(CAP)は画像診断があることが前提で、ないものは気管支炎として抗菌薬を投与しないようにとIDSA/ACPも厚生労働省も言っている。VATとVAPと名前を変えたからには何かそこに意味があるはずだ。しかしこの疑問に答える努力をしているのは米国のガイドラインのみであった。

 まず、VATについての定義を確認しなくてはならない、ここにもまた定義が複数出てくる。ある者は言う「挿管患者で画像所見のない膿性痰があればVATです。」 またある者は「挿管患者で画像所見がなく、膿性痰と炎症反応上昇や発熱を伴っているものを指してVATと言います」と。そういうことをやっているからなかなか統一的な見解がでない。まとめると5)

VAT定義:被挿管患者の下気道感染で画像所見なし
下気道感染の定義:膿性痰 and/or 全身の炎症反応上昇
ICUの被挿管患者の10%以上に発生する
 VATの治療 について1つの非盲検化RCTと4つの観察研究が存在する。観察研究ではさすがに重症な人や治療した方がよさそうな人を治療するだろうから、あまり参考にならないかもしれない

非盲検化RCT:VATの定義→他に認識できる原因のない発熱(38℃以上)、膿性痰、挿管時にいない細菌を含む気管内吸引液の培養陽性、CXR所見が目立たない、の条件を満たす。
ICUでの死亡率↓(18% vs 47% ; OR 0.24, 95% CI, 0.07-0.88)
VAPへの進展↓(13% vs 47% ; OR 0.17、95%CI, 0.04-0.70)
VATの有病率高→すべて治療すると抗菌薬使用量↑で耐性菌↑
結果を踏まえつつもVATを見たら抗菌薬なしでの経過観察を推奨
 なかなか肺炎像がないので治療しませんでした、ということは難しいかもしれないが、そんなに具合悪くなさそうなら選択肢としてはアリなのかなという印象。

 また、VAPの微生物学的診断についてはどのガイドラインでも似たようなことしか書かれていなかった。しかし、治療閾値については唯一米国のガイドラインに侵襲的な検体採取→定量培養を実施した場合の細菌量による抗菌薬投与基準が記載されていた。しかし別に採取方法は何でも良い。何でも良いなら普通の吸引が楽だから良いだろうが、微妙な時には侵襲的な方法を取らざるを得ないかも。挿管患者へのBALはやったことない。気管支鏡は痰詰まりの解除くらいにしかつかったことなくて自信がない。その点でminiBALみたいに盲目的につっこんで、止まったところで洗って検体採取というのはやりやすいのかもしれないなとか思った。これも使ったことはない。

微生物学的診断1)2)3)
非侵襲的方法による採取:チューブを通して下気道から直接吸引。半定量培養3+以上または定量培養10^6CFU/ml以上。
侵襲的な方法による採取:BAL、min-BAL、PSB(検体保護ブラシ? 使ったことがない)で半定量 2+以上または定量10^4CFU/ml以上
侵襲的な方法による検体採取で定量培養10^3CFU/ml以下では治療せずに経過観察可2)
血液培養または胸水と下気道検体の細菌が一致
 診断基準については、CRP、プロカルシトニン、臨床肺感染スコア(CPIS)など気にせずに臨床的に判断するので良いとの記載もあった。2) CPISというのを使ったことがなかった。7点以上でVAPを疑う(感度:73.8%(95%CI 50-89%)、特異度 :66.4%(95%CI 44-88%))とのこと。6)

f:id:butabiyori:20210401160403p:image

CPIS
 また、毎日みているVAPだけど人工呼吸器管理1000日あたり2-16人のVAPがでるとされているらしい。7)8) でもこの数字は体感よりはるかに小さい。挿管患者の半分くらいがVAPになっている気がする。重症度が高くて必然的に挿管期間が長くなるからかもしれない。

 予防についてはエビデンスレベルがまちまちだった。推奨の強いものは下記のあたりだった。4)9)10)

(再)挿管を避ける/可能なら非侵襲的換気量法→毎日の鎮静中断、可能なら無鎮静管、毎日SAT・SBT実施
体位(30-45°) 少なくとも経管栄養中は実施を
48~72時間以上の挿管が予測される場合カフ上吸引付き挿管チューブ使用
手指衛生
呼吸回路の頻回な交換を避ける:ルーチンで実施しない、目に見える汚れ・故障があれば実施
そのほか良いかもしれないものとしてCochraneをみていたら、口腔ケア(0.12%クロルヘキシジン、ポピヨンヨード、生食、furacilin→Cochrane databaseより)、プロバイオティクス、ultrathin polyurethan cuff、生食の注入後の吸引、中咽頭/消化管選択的除菌→ただしこれについては耐性菌リスクなどからやらないことを推奨2)

 カフ上吸引付き挿管チューブは普段あまり利用していなかった。カフ上吸引についてのsystematic reviewでは、20のRCTを組み入れ。VAP罹患の相対危険度 0.55(95%CI 0.48-0.63)に低下。VAPへのNNT 9-13。ただし院内死亡/ICUでの死亡は有意差なし。11) もう一つ同じ時期に同じレビューがあり、こちらでも似たような結果でVAP発生率以外には有意差つかず。12) そのほかの挿管チューブ関連でAutomatic control of ETT pressure(適切なカフ圧を勝手に維持してくれてタレコミを予防する試み)では2つのblind(-)RCT でいずれも死亡率は減らせず、一方の研究でVAPは有意に減少はしたとのことでうーんはっきりしない、使っても良いのかなくらいか。13)14) 個別の論文を批判的に吟味する余裕はなかった。ごめんなさい。あとタイピング疲れたので引用文献はPMIDにしてしまった。

〇Take Home Message

●診断治療

・挿管48時間以上で画像所見あればVAPとして治療

・画像所見ない場合にはVATでありケースによっては抗菌薬なしで経過観察して良い

・検体採取方法はふつうの吸引でOKで半定量培養3+以上または定量培養10^6CFU/ml以上あれば診断。それ未満の場合の扱いは微妙。

・結局診断は臨床的に行うことになっているからあなたがVAPと思うならVAPです

●予防

・挿管しないことと早期抜管を頑張る:NIPPVの使用、毎日のSAT/SBT

・30度以上の頭位挙上:少なくとも経管栄養中は実施すること

・手指衛生する、回路交換は汚れるまでしない

・48-72時間以上の挿管時にはカフ上吸引付きチューブを使用

 

1) International ERS/ESICM/ESCMID/ALAT guidelines for the management of hospital-acquired pneumonia and ventilator-associated pneumonia

2) Management of Adults With Hospital-acquired and Ventilator-associated Pneumonia: 2016 Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America and the American Thoracic Society

3) 成人肺炎診療ガイドライン2017

4)ICU感染防止ガイドライン改訂第2版

5) Despoina K et al. : antibiotics 2020 Jan 31;9(2):51.

6) Shannnon MF et al. : Intensive Care 2020 Jun ; 46(6):1170-1179

7) Rosenthal VD, Bijie H, Maki DG, et al. International Nosocomial Infection Control Consortium (INICC) report, data summary of 36 countries, for 2004–2009. Am J Infect Control 2012; 40: 396–407.

8) Rosenthal VD, Maki DG, Jamulitrat S, et al. International Nosocomial Infection Control Consortium (INICC) report, data summary for 2003–2008, issued June 2009. Am J Infect Control 2010; 38: 95–104.

9) 人工呼吸関連肺炎予防バンドル 2010改訂版

10) Michael Klompas et al. : Infect Control Hosp Epidemiol 2014 Aug ; 35(8) 915-36

11) Zhi Mao et al. : Clitical care (2016) 20:353

12) Caroff DA et al. Critical care medicine 2016; 44: 830-840

13) PMID 21836137

14) PMID 17452937