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初心者の勉強記録です

非専門医の骨粗しょう症診療 薬物療法

 年単位で診療ができる定期外来を持つことができるようになった。他の人からの引継ぎ患者もいること、電子カルテ導入が最近であること、心電図やエコー検査所見は電子カルテ端末からいまだに参照できないことなどから過去の経過をまとめることに難渋している。

 どうしても二次救急病院にいると入院診療の対象は超高齢者、アルコール依存症患者がメインになってしまう。健康に暮らしている人が病気になってもすぐに改善するので長らく入院していることはない(IEくらいでは?)。

 外来だとまた話はまた変わってくる。私の苦手意識が強いのはやはり骨粗しょう症診療。第一選択がBPであること、BP(ビスホスホネート)製剤のエビデンスが活性型ビタミンDとCa製剤の投与下での効果であること、数年はBP製剤を使うにしても永遠に使うわけにはいかないことなどを漠然と知っている。しかし、SERMはまだしもテリパラチド、抗RANKL抗体などについてはまったく分からない。フローチャートらしきものも出回っていない。私はここに至って骨粗しょう症診療をしろーとでも最低限できるためのアルゴリズムの作成の必要に迫られた。ざっくりまとめる。

 

主要なガイドラインはJIOS2015、NICE2011、SIGN2015、NOF2014、カナダのガイドラインなどなどあるようで数が多くて憂鬱な気持ちになる。

 

ちなみに、薬物療法で第一選択となっているのはBPだが、エビデンスが豊富でおすすめされているBPですら骨折の一次予防へのエビデンスはあまりない。結局大切なのは転倒予防としてベンゾジアゼピン系薬の減量中止であったり、フレイルへの介入であったり、病棟でのせん妄対策であったりするのかもしれないという気持ちになった。まあ、そうは言ってもね……。

 

・介入の対象

目の前の患者に治療を行うべきかについて脆弱性骨折の既往、ステロイドの全身投与(>7.5mh/day)があれば治療対象として良いとされる。それ以外の外来にきた元気そうな人についての介入として、日本のガイドラインでスクリーニングの対象は示されていない。米国では65歳以上の女性でスクリーニング推奨。スクリーニングの方法として、FRAX(fracture risk assesment tool)や骨密度の測定がある。FRAXはネットでみることができる。骨密度測定はDXAで行う。DXAは腰椎・大腿骨近位部の骨密度を測定して性別ごとの若年成人の平均(YAM ; young adult mean)との比較で行う。注意点は圧迫骨折で実際よりも骨密度が高く測定されてしまうこと。YAM<70%で骨粗しょう症として治療適応。FRAXは日本のガイドラインでは骨折リスク15%/10年以上で治療適応。

https://www.sheffield.ac.uk/FRAX/tool.aspx?country=3

・介入方法

BP製剤:第一選択、長期的に(3-6年)後に中断しても骨折リスク不変、非定型大腿骨骨折増加、MRONJリスク増加あるため3年程度で中止。MRONJ予防として歯科治療が必要なら先に実施しておく。そもそもBP製剤を骨折後早期に開始することで二次予防の効果が高まることもない。日本のガイドラインだと第一選択はアレンドロン酸とリセドロン酸。ベースの論文で活性型ビタミンDとCa補充されているので、これらを追加するか食事からの摂取を促したり、日光浴を勧めても良いかも。25-OH(D)血中濃度測定して<25であればBP製剤の効果がおちるためアルファカルシドール内服。

SERM:椎体骨折↓のエビデンスがある。他はない。第一選択ではないのでBP製剤中止後にスイッチするのはあり。

テリパラチド:二次予防での骨折予防のエビデンスあり。複数のRCTで椎体骨折・非椎体骨折いずれも減少。鎮痛効果もあり。よさそうだけど価格がネック。BP同様にCaと活性型ビタミンD投与中のエビデンスしかないので併用。高Ca血症なりやすいのでデータフォロー。BP製剤が使えない場合や使ってもダメな場合に使うのはあり。

デノスマブ:骨折の一次予防・二次予防にエビデンスあるがBPとの比較はなし。第一選択にならない。高価。やめると骨減少が急速に進むのではじめたらやめない。

 

・効果判定

DXA:どの程度の頻度で行うべきかという回答がとにかくざっくりしている。最小有意変化が期待される感覚で、という感じでそれがわかっているなら薬剤別に一覧にしてくれたらいいじゃないか。測定の誤差(再現性)で補正した有意差が骨量変化の検出限界で、これをLSC(least significant change : そのままだ!)などとかっこよく呼ぶ。

LSC=1.96×(√2)×変動係数(測定精度 腰椎正面で1-2%、大腿骨近位部で1-3%)

と表現されるらしい。このあたりの式の導出方法は知らない。生物統計に詳しい人にきいてくれ。BP製剤は5%前後/2-3年程度、テリパラチドはもう少し良いかもくらい。SEMはもう少し悪いかなくらい。であるので、腰椎正面で撮影しているなら、BP製剤内服であればLSC 2%程度なので年に1回程度は効果判定しても良いかな、となる。SERMなので2年に1回です、というのもなんだかなとなるし、まあ年1回で良いのでは。BPは最初の効果が大きいらしいので初回はもう少し間を狭めてもよさそう。椎体骨折も半年くらいからプラセボと有意差がつくので半年くらいで効果判定して良いのではないか。ただ、DXAで効果なさそうだから効果ないという話でもないようで、結局は骨代謝マーカーでの効果判定もしないわけにはいかない。

代謝マーカー:いろいろあって難しく感じる。日内変動が少なく腎機能の影響を受けにくいのはBAP(骨形成のマーカー)、P1NP(形成)、TRACP-5b(吸収)。選択する治療法別になに調べるのか決まっているが、きまっていなければ、これら3つとucOCあたりを計測で良いんじゃないかと思う。日内変動や腎機能の影響を受けやすいマーカーは使いにくいのでこの3つが無難のように思うし、ucOCはビタミンK補充の必要性を判定するために使用できる。ビタミンK単体での骨折予防効果のエビデンスないので、他剤治療中に効果イマイチでこれがさがっていたら補充というのはreasonableと思う。

ガイドライン上は以下のように治療の効果判定に活かすようにとされている。ビタミンDとかCaだけ内服しています、みたいな人の効果判定はこれらのマーカーではできない。効果判定をした時にあれ奏功していないのでは? となった時の鑑別についてもガイドラインに記載あり。

f:id:butabiyori:20210409223832p:image

勿論病態を理解する上でエキスパートが重視するのはわかるんだけれども、ただじゃあ吸収が亢進しているからBPとか、形成が低下しているからテリパラチドとか、結局値段もかなり違うので、そういう話では現状ではないだろうと思ってしまう。そもそもテリパラチドは第一選択にならないわけで。

だから、もちろん骨吸収↑(TRACP-5b↑)でBP使うとよさそうだねというのがわかっても、骨形成マーカー↓からじゃあすぐにテリパラチド始めましょうか、というとそれも医療経済的に合理的ではない気がする。BPより優れているいかなる証拠もないはずなので。そうなると代謝マーカーの使い方はよくわからなくなってしまう。悩ましい。

 

代謝マーカーと効果判定

効果判定でイマイチだった時
 

 

★まとめ(わたしの思う楽でそれなりのクオリティのルーチン)

スクリーニング対象:

 65歳以上の女性

 男性は諸説あり、やらなくて良い~70歳以上まで

 リスクファクター次第であまりはっきりしたものなし

 

スクリーニング方法:

 FRAXとDXAを実施

 

介入の対象:

 DXAでYAM<70%

 FRAXで骨折リスク15%/10年以上

 脆弱性骨折の既往

 PSL 7.5mg/day以上内服

 

介入方法:

 歯科受診後にBP製剤開始

 ±活性型ビタミンD(25-OH(D)血中濃度<25で内服)

 ±Ca(食事摂取→ダメなら内服)

 BPの使用期間は3年程度。

 BPでダメならテリパラチドorデノスマブ+活性型ビタミンD±Ca

 BPなど使用後の選択肢としてはSERMとかテリパラチドとかデノスマブとか色々

 

効果判定:

 DXA BPで腰椎なら半年~1年くらいに一回 最初は半年くらい

 マーカー:BAP(骨形成)、P1NP(同左)、TRACP-5b(吸収)

  治療前と治療3-6か月でデータフォロー

  BPで開始して骨形成マーカー↓で治療変更することが合理的かどうか不明

  そのあたりはもう整形とかに一度コンサルしてよさそう