株式投資とその周辺

初心者の勉強記録です

初診外来的個別株投資

何年かやってて初診外来に近いなと思うことが増えてきたのでそのあたりについて書いてみる。

 

初診外来では検査前確率の推定が大切で、予診票に「50代健康診断未受診医療期間未受診食欲不振半年で10kg体重減少」と書いてあればまあ癌だなと思う。これまで医療機関未受診だった人がやっと来るのはそれなりに重症であることが多いし、すでに進行した癌なんだろうなと思いつつ呼びいれる。また予診表に「頭がふわっとして、胸が苦しくて、胃が痛いことがあって、たまに手足が痺れて、息苦しい感じがたまにあり、あとは何となくだるくて」といった多数の臓器にわたる訴えが書かれていると、内科的に一元的に説明できる疾患はあまりなさそうだなと思う。そこで呼び入れた後に経過をびっしりメモした紙を持ってきて読み上げ始めたら神経症圏かなとより強く思う。不定愁訴につながりそうな器質的な疾患は可能性が低いなと思いつつもスクリーニングはするけれど。コロナの流行とその検査が普及した頃から、市民にとっても検査特性について意識することは以前に比べてより一般的なことになった。ある疾患を探す検査が陰性でも疾患を除外できないことや、陽性でも他の可能性もあることは我々にとっては常識だったが、外来の時間でそういったことを説明して理解してもらうことは難しかった。

 

前置きが長くなったのだが、ここ2年くらいで投資スタイルが変わったとすれば検査前確率を意識するようになったことだと思う。個別株の投資対象としての是非を調べる自身の検査特性について当初は考えていた。これ自体は何ら特別なことはなく、なるべくきちんと財務諸表を読めるようになろうとか、事業自体について理解しようとか、大株主の構成も意識しようとかそういう普通の話から始まった。最初は何となく安そうなものを買っていた。次に何となく安そうなもののうち安さが解除されそうなものに移行していった。当初の想定が外れても割安であり続けるだけで損もしなければ大して得もしないといった状況になった。したがって、現状は株式市場に長く留まることができるレベルにはなっていて、それだけでリスクプレミアム分の恩恵は長期に亘って享受することができる。

 

全ての上場企業についてざっくり知ることは恐らく不可能ではない。しかし多くの人が四季報通読やら適時開示を読み漁る中それもエッジにはなりにくそうだ。また、誰にでもできるスクリーニングは意味をなさないはずである。個人的には、よく分からないバイオベンチャーは宗教上投資しないとかそういう除外基準はある。ざっくり薄く多くの企業について知ることはそれほどパフォーマンスに寄与しないはずだというのは、やはり凄腕の方々の投資根拠などを聞いていると実感できる。投資対象について深く調べるべきであるし、そうなると必然的にある程度投資対象をしぼる必要はある。しかし、PBRだけでバリューというのは無理があるし、財務を見てと言ってもネットキャッシュや含資産までみるのは盆栽投資家ならありだと思うが、βも低くなるのでシャープレシオは高くても卓越したパフォーマンスには繋がらないだろう。低βとレバの組み合わせならアリかもしれないが、レバをかけると認知資源をそこに投入する必要がありパフォーマンスの維持が本当にできるのかは自信がない。だから自分は入金投資家であろうとしている。エッジがあるとしたらそこだから、というのもある。

 

検査前確率を上げるためには自分がどういう企業を深堀りしたいのかを考える必要がある。宗派について明かすと自分は価格が価値に収束するという説を深く信じている。これは性格上の問題で、他人が買うから上がるのであって他人が買うものを少しだけ先回りして買う(そこに価値に大しての判断をいちいちつける必要はない)という信条の人もいるだろうが、他人が何を欲しいのかはよく分からないので自分にはできなかった。考えてみれば小さな頃からみんなが遊戯王カードをやっている時に、端っこでちんちんサムライ(自作のキャラクター)の漫画を書いているような人間だったから仕方ないのかもしれない。だから他人が欲しがらない物で価値より割安なものを探したかった。バリュー×逆張りの苦痛を伴う投資が性格的に合っているのだと思う。

 

ある企業があるタイミングで価値より割安になるという時にはいくつかのパターンがあると思う。大体は価値と価格は一致しているので、ズレるタイミングについて考えなくてはいけない。ハンター試験でゴンがヒソカからバッジを奪うタイミングを考えるみたいな話。ぱっと思いつくのは指数の除外などで需給が悪化する時、地合いに引きずられる時。フルポジなので地合いに引きずられて下がる時にポジションを増やすことは入金以外では不可能なのでこれは難しい。指数除外だと最近は小田急を買って準主力にしている。私鉄がどこも投げ売りされていて安かったが、分売後の名鉄、指数除外の小田急東武鉄道あたりはかなり安かった。小田急は再開発の資金需要があるものの増資懸念がなさそうだった(直近でホテルを売却して手元資金を増やしていた)ので購入した。

 

流動性低視聴率低時価総額BtoB地味などは原因の解除可能性がないならあまり割安とは言えないのかもしれないが、割安であることに気がついて解除される見込みについて考察できれば投資対象になるのだと思う。あとはマイルドに成長していくものはPERの水準訂正は起こらないけれどEPS成長分は取れる印象で低βでそこそこのパフォーマンスを目指すなら良いのかなと思う。以前はそういう企業を買っていた。グリーンクロス、太陽化学、ソフト99コーポレーションみたいな所。ただ安い企業を買うだけだと労力の割に指数についていくのも大変になってしまうのがデメリット。バリューいけすにいれてより安いものに入れ替えるなどで転売繰り返すのも流動性が低いので運用額が大きくなるほど難しくなる。

 

あとはぱっとしない業績が続いていて解除されつつあるものを見つけていくのも良さそう。PBRが過去最低水準を底這いしているものを見ていくとぱっとしない業績が続くものを拾い上げできるので、そういう企業を拾い上げていって変化の兆しをチェックしていくと検査前確率が上がるのではないかと思っている。2022年頃に精糖、乳業あたりはかなり売られていた。円安燃料高粗糖高で苦しんでいた東洋精糖は歴史的にも安値圏で財務もCFも問題なくバリューだったことと値上げしても商品は買う他ないので一過性の業績悪化と思って主力にしていた。飼料高騰で乳業が危険というニュースでみんなが危険を織り込んでいたので、メグミルクも主力にしていた。市場参加者が危険性を十分に認識していればその価格は危険性を織り込んでフェアバリューなので解除されればリバるだろうし、CFや財務的に問題なければ買って良いと考えていた。最近はゴマが高騰しているので、昨日記事に書いたようにかどやをよく見ているのだが打診買いしかしていない。微妙なタイミングで買うと底這いヨコヨコ期間で指数に置いて行かれるのがつらい、その間に信念に基づいて愚直にポジションを増やすことができて想定通りいけばまあ良いのだが、失敗しても損はしにくいイメージがある。これも性格的に合っている。