株式投資とその周辺

初心者の勉強記録です

事業価値推定

■振り返り

企業価値を事業価値と資産価値の和で算出すること、資産価値の考え方について前回に述べた。資産価値について、換金しやすいものだけをとりあえず評価すると安全かもしれない。換金しやすい資産は流動資産と呼ばれる。これと投資そのほか資産を合わせたものだけを資産として考えて、ここから会社のもつすべての負債を引くことで資産価値を算出することができる。しかし、実際にはブランドのイメージや経済的な堀(新規に参入することが難しい独占や寡占されている業態)なども目には見えない資産価値である。なかなかそのあたりの定量的な評価は難しい。だから例えば、資産価値が企業の時価総額とほとんど変わらないにもかかわらず経済的な堀やブランドイメージがあるのであれば割安であることは間違いない。(もちろんこれは事業価値がマイナスでなければの話である。)また、土地等の含み益も考慮できると良い。土地はバランスシートに記載されている値段は簿価と呼ばれるが、実際にははるかに高額である可能性があり、有価証券報告書を見るとそれも確認できる。でも面倒ならここら辺は省いても良いかもしれない。流動資産+投資そのほか資産-すべての負債くらいでざっくり見るくらいから始めるとハードルが低いように思われる。

□資産の中身で売れない在庫が積みあがっていないかなども見られると尚良い。業績とも関連するのでいつか別の記事で書く。

■事業価値の評価

□事業価値には上記よりややアートな領域が入ってきて難しい。過去の業績は調べることでわかっていても、現在の企業の価値を決定するのは未来の業績であるためだ。教科書的にはディスカウントキャッシュフロー(DCF)法では事業価値を今後得られるフリーキャッシュフロー(FCF)の割引現在価値の総和として扱う。この教科書的でとっつきにくい一文を以下で説明していく。

□FCFについて話すためにはまずキャッシュフローについて知らなくてはならない。バランスシートは資産、損益計算書は事業の内容、キャッシュフロー計算書は事業等での実際の金銭の授受を書いている。実際の金銭の授受、なにそれ、となる。

□会計では、どうやら発生主義と言われる考えがあるようだ。例えばAがBに100万円の商品を売った場合、商品のお金が振り込まれなくても売買=金銭の授受の必要性が発生したことを以って損益計算書に100万円の商品を売って利益を出しましたと記載しなくてはならない。一方で、キャッシュフローは実際に入金された額を見ている。この差が重要になるのは事業をどんどん拡大している企業で、手元の現金がみるみる減っている場合に営業利益が順調に増えていても自転車操業である場合だ。大丈夫だろうかと不安になる。黒字倒産などで検索すると、不健全なキャッシュフローが続いて手元の現金がどんどん減っていって、のような例がでてくると思う。会計に詳しくないので細かいところが違ったらごめんなさい。

キャッシュフロー(CF)は3つに分けられる。営業CF、投資CF、財務CFである。営業CFは事業で稼いだお金である。投資CFは事業に必要な投資につかった現金である。新しい工場をつくったとかがそれにあたる。財務CFはお金を銀行から借りたとか返済したとか、その手のお金の動きである。借入金をゲットしたらプラスだ。営業CFから投資CFを引いた差をフリーキャッシュフロー(FCF)と呼ぶ。

□事業が健全で、すでに安定して軌道にのっていれば、FCFはプラスの状況が持続しているはずだ。FCFがプラスであるということは、稼いだお金の範囲内で事業への投資を行っているということで安全性が高そうに思われる。ただ、まさに今成長している企業では、新規店舗を立てるために一時的に投資CFが積みあがってしまうこともあるだろうし、営業CFを上回ってしまうこともあり得るだろう。個人的には安全域を大切にしたいのでFCFが安定してプラスであることを重要視してしまうが、成長株においては必ずしも当てはまらないかもしれない。また、単年度ではなく長期的にみるべきでいくら増収増益でもFCFがぜんぜんプラスにならないなら投資先としては選択しにくいという話になる。

□事業価値を推定する時には来年、再来年、さらにその翌年、とFCFを予測しなくてはいけない。一年目のFCFをFCF1と表記することとする。g毎年成長する場合について、FCF2=FCF×(1+g)である。ただし、これらの推定には不確かさが伴う。不確かさを定量化しなくてはならない。不確かさは割引率という。これは利息と同じ考えである。定量化の方法については後で述べる。

□例えば研修医が奨学金の返済に困っている。100万円を一年間かしてほしいと言われるとする。さらに、10%の確率でばっくれられるとしたら、90%×X円+10%×0円=100万円となるX円を返済してもらえるように利息を最低でも設定しないといけない。計算すると111万円が適切な1年後に返済をもとめる額である。一年後の111万円と現在の100万円が等価となる。これを小難しく言うと、「来年の111万円の割引現在価値は100万円である」となる。10%で返済してもらえない場合の利息rは0.1111……になる。(実際には金融所品であればここにリスクプレミアムが乗ることになる。)現在の100万円は未来の100×(1+r)円であるし、逆に未来の100万円は現在の100万円/(1+r)円である。

□FCFを来年同じだけ得られるかどうかは分からない。だから、これも借金の時と同様に不確かさを考慮しないといけない。FCF/(1+r)として現在の価値に割り引くことになる。ここで、先ほどの成長率を合わせて考えると、n年後のFCFn=FCF1×{(1+g)/(1-r)}^nとなる。永遠の未来までのFCFの和を求める場合はこのn=1から∞までの和を求めると良い。これは、初項がFCF1、公比が(1+g)/(1-r)の等比数列のn=∞までの和であるから、懐かしの高校数学を使うだけだ。

★FCFの割引現在価値の総和=FCF1/(r-g)

と表現することができる。これで、あとはrとgの値をそれぞれ定量化できれば、事業価値の算出が可能になった。以下にそれらの定量化について書いていきたい。

□(おまけ)ただし、ここではrが一定であるという前提を置いている。永遠に成長し続ける企業など存在するだろうか。実際にはいつか成長が鈍るだろうから、成長期の企業の5年分ほどを予測して、5年後にはすでに成長しきっている同業他社の事業価値を参考に5年後の事業価値を決めることなどを行うことになる。他社との比較はマーケットアプローチなどと言われる。EV/EBITDA倍率やEBITDAなど複数の指標を組み合わせると良いかもしれない。このあたりの指標の説明はググるとすぐに出てくると思うのでここでは割愛。

□割引率はCAPMと呼ばれる方法で算出する。最初の時にリスクプレミアムについて書いた。あとは勉強したくなければ、インデックスファンドを買うと良いという話だ。個別株に投資するのであれば、インデックスファンドより投資成績がよくなくてはあまり意味がない。ある株の割引率(=期待利回り なぜなら先ほども話したように、割引率とは利息であるから利回りと割引率とは同じものである)はリスクのない運用先(大抵これは10年の国債などである)とマーケットリスクプレミアム(インデックスの割引率)の両方を考慮して算出される。

★株主にとっての個別株の期待利回り=無リスク資産の割引率+β×(マーケットリスクプレミアムー無リスク資産の割引率)

□βは指数との連動性である、指数に比べて値動きが半分ということは、リスクも半分だから、プレミアム(割引率)も半分だ、という解釈で良いだろう。βが小さい方が投資先としては安心感があるので、利回りは下がるということだ。βの値の算出方法はまだ残念ながら調べていないので気になる人は各自で調べてほしい。でもざっくりとしたイメージはそんな感じだ。楽天証券の指標のところで出てくる。また、ロイターの株のページからも見ることができる。

□現状で日本においては10年国債の利回りはほぼ0なので、これはゼロとして計算して良い。マーケットリスクプレミアムは、大体7%程度のリターンが平均的であるようなので(意外と大きいね、でも利回りが大きいということは、DCFの分母が大きくなるということなので、事業価値が小さくなるということだから、厳しめの計算になる。そして安全域を取るという点においては厳しく算出することは悪いことはない。ざっくりと計算するときは厳しめに計算した方が良い。厳しめに計算しても割安であればそれはかなり割安である。)

□しかし、これは株主にとっての期待利回り(株主資本コストとも言う)である。会社にお金を出しているのは株主だけではない。銀行などもお金を貸している。ここでWACC(加重平均資本コスト)という概念が出てくる。

★WACC=(支払い利息/有利子負債)×有利子負債/(有利子負債+株主資本コスト)×(1-実効税率)+株主資本コスト(CAPMで算出する)×株主資本/(有利子負債+株主資本コスト)

実効税率を引くのは負債の分は節税になるから、ということらしいのだが、ごめんなさいここは詳しく説明できない。それ以外については、銀行から借りているお金の分については銀行の利息を、株主の出しているお金の比率については株主の期待利回りを適用しましょうという話なので、そんなに難しい話ではない。

 

■事業価値推定の困難さ

□DCFを使うと確かに尤もらしく事業価値を推定できるのだが、成長性の見積もり(毎年同じ割合で成長することなど実際あり得ないだろう)や成長が落ち着いた後の企業価値(ターミナルバリュー)の設定が結構難しいことに気が付くと思う。グロース株と呼ばれるものに積極的に投資を行っていない理由に不確かさが大きいものに賭けをしたくないから、というものがある。成長率の低いものの底堅い需要が長く見込まれる企業であればこの点はあまり問題にならないだろう。また、資産価値だけでほとんど時価総額をカバーしてしまう状況であれば、事業価値数年分+資産価値で時価総額を上回ることもあるだろう。そういった場合には自信をもって割安であると言える。どうしても投資先がそのような企業に偏ってしまう。Twitterの投資家界隈や、大株主で私と同じような企業の株を持っている人が一定数存在するが、それらの人々は多分私と同様の考え方なのだと思われる。

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■まとめ

★DCFについて:事業価値=FCF/(r-g)

CAPMについて:株主にとっての個別株の期待利回り=無リスク資産の割引率+β×(マーケットリスクプレミアムー無リスク資産の割引率)

★WACCについて:株主と銀行などの期待する利回りの加重平均(これをDCFのrに代入する)=(支払い利息/有利子負債)×有利子負債/(有利子負債+株主資本コスト)×(1-実効税率)+株主資本コスト(CAPMで算出する)×株主資本/(有利子負債+株主資本)

※r=割引率 g=成長率

※無リスク資産のリスクプレミアム=10年国債の利回り=0

※実効税率=30%で計算することが多いようです

※これはエンタープライズDCF法とよばれる手法で、金融関係の企業の事業価値を評価する場合にはエクイティDCF法と呼ばれる別の手法が使われています。これはまだあまり勉強してないのでここでは扱いませんでした。

※DCFだけではなくて、マーケットアプローチとかマルチプル法などと言われるもの、EV/EBITDA同士での比較など組み合わせて評価して企業価値に幅を持たせることが多いと思われます。あとはここに書いたように5年分くらいの事業価値を算出して残りのターミナルバリューはマルチプルで出すとか。

※結局企業が内部にため込んだ資産価値なんて個人投資家の株主には関係ないよ、という人には配当割引モデルなど別の手法が良いかもしれない。結局複数の手法があってどれにも正当性があるからこそ、自分にとって不適切に安いと思われる株価が存在する。

ロマンチストになれないなら

■前回の話

□株式市場が効率的である時にインデックスファンドの積み立ては正解になる。もし個別株の投資を行うならば、市場が効率的でない値段をつけているものを購入するべきである。つまり、企業の価値を計算して、企業の価値を発行済株式数で割ってやることで一株の価値を出し、それが実際の株価より低ければ良いわけだ。ただし、低いには低いなりの理由があることが良くある。低い理由を説明できて、それが解除可能であったり、あるいは自分にとって我慢できるものであったならばその株を購入するという選択をすることになる。

■資産価値:目に見えるもの

□まずは資産価値について考えてみよう。これはそれほど難しくない。企業は決算短信有価証券報告書というものを定期的に出している。気になる企業の有価証券報告書をネットで探せば簡単に手に入る。ここに書いてある資産に注目するだけである。

□決算書は見慣れないかもしれないが、表が大きく3つある。貸借対照表(バランスシート)、損益計算書(PL)、キャッシュフロー計算書である。資産を見たいときには貸借対照表というところを見ればよい。

□ここの仕組みを大体説明する。資産と書いてあるのが文字通り会社の資産である、土地や現金、売上債権、工場やその機械などだ。気にするのは流動資産というくくりに含まれるものだけで基本的には良い。流動資産というのは換金しやすい資産を指して言う語である。換金しにくい資産、例えば工場の機械などは何円が適切なのかはっきり言って良く分からない。機械装置・搬送具●億円と書いてあっても、それが本当にその値段で売れるのかどうかは別問題である。そして、そういったよくわからない資産は非流動資産に含まれている。

□資産価値を見る時に意識することは、自分が会社を乗っ取って社長になった時にその時価総額で買収できたら嬉しいかどうかだ。会社を壊して、みんな社員をクビにして借金は返済するとして後に残ったお金だけ買収した私がもらってしまうことができるとしたらどのくらいの価値なんだろう、機械とかはよくわからないし、捨てちまえ! 土地の値段も分からなければゼロ換算にしてしまえ、とそんな気持ちで読んでいくと良い。慣れたら細かい項目について意識すればよいのだ。

□具体的には資産価値は流動資産(換金しやすい資産)+投資そのほか資産(これも換金しやすい資産)の合計-負債すべての合計で計算することが多い。投資その他資産というのは、その会社が持っている関係会社の株式などが含まれている。これも自分が会社を乗っ取ったら売ってしまえば良いので(実際には無理でもそういう仮定で換金しやすい資産だからそのように扱う)これも資産として考えてやっても良いだろう、という感じである。

□毎回土地を無視して良いかというとそうでもない。貸借対照表にはちらっと雑に値段が描いてあるだけでも、実は高額な土地を沢山もっている企業がある。例えば、バリュー投資家界隈で最近人気のJR東日本の場合、以下に写真を添付する。これは有価証券報告書という年に1回出る詳しい会社の資産や業績や今後の事業リスクなどについて書かれた資料の一部だ。この中に不動産価格や所有する株式等について、時価と簿価との差が記載されている。よく資産バリュー投資家の人がいう実質PBRというのはこのあたりで補正した資産価値のことを言っている。

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土地含み益

□『星の王子様』や『人間の土地』で有名なサン=テグジュペリを地中海上空を飛行中撃墜したのはホルスト・リッパートという彼のファンだった。ホルスト・リッパートは後に「あの飛行機に乗っていたのがサン=テグジュペリだと知っていたなら撃たなかった」と話した。大切なものは目に見えないと書いた当の本人が、自身の存在を認識されなかったために亡くなってしまったことになる。

□資産価値についても同様のことが言える。目に見える価値はわかりやすい。現預金●億円だとか、負債●億円といった値は決算短信有価証券報告書を参照すればすぐに分かる。土地や有価証券含み益(帳簿価格との差があるもの)も一応上記のように調べれば出てくる。

貸借対照表から見えない資産価値が厄介である。コカ・コーラはノーブランドの黒くて甘い炭酸水より高額で売れるし、それは会社の価値なのだが、これまで培ってきた会社の良好なイメージは数値化できない。だから、業績の差以上に株価に差が出る場合には、この手のブランドイメージによる差も少なからずあるのだが、それではその株式時価総額の差は正当か? という問いに答えることはなかなか難しいだろう。効率的市場に従えば、おそらくその時価総額の差は正しく企業価値の差を反映している。これが誤っているかどうかはよく分からない。

 

 □私個人が好むのは、この手の超過収益力に乏しい企業だ。もちろん投資先としては本当はあまり魅力的ではないのかもしれない。しかし、リスクの管理という点で企業価値を推定しやすいことは、適切な株価を推定しやすいことにつながる。大きく儲けたいのであれば、お勧めできないが、安全域を取った投資を行いたいのであれば、価値の推定はなるべく厳密にできた方が良い。そして、厳密に計算した企業価値よりも数倍程度本来の価値が離れていればかなり安全域が大きいと考えることができる。

□実質PBRランキングなどで検索すると含み益も考慮した時価での資産価値に比して割安な銘柄が出てくる。それぞれに対して割安な理由を説明できると良い。JR東日本はコロナで落ちている。倉庫株はもともと地味で不人気だ。知多鋼業は地味だし東証二部で一日の出来高(売買数)が少ないので流動性プレミアムが低いために割安だ。流動性プレミアムとは売買しやすいものの方が高いということだ。株式の良さはすぐに売買できるところにある。売りますといってから一年売れないとかであれば、株式への投資閾値はもっとずっと高くなるだろう。ファーストリテイリングみたいに大きな会社で指数にも入っていると出来高も当然大きいので売りたい時にその値段でぱっと売れる。しかし名証二部単独上場で時価総額も100億円未満などの地味な企業であれば買いたい人も売りたい人も少ないので、大量に保有していた場合に一気に売ることが困難になる。これはちょっとやりにくいので、嫌だなと思うだろうし、嫌なものは割安になる。

□資産価値が目減りしていくことが見込まれているから、割安に放置されているのであれば投資の対象にはしにくい。黒字続きであれば(※厳密には営業キャッシュフローが黒字続きであれば、なのだと思う。利益というのは実際に入ってきたお金について言う言葉ではなくて、会計上の発生主義と言われる考えによるからだ。キャッシュフローは実際に入ってきたお金を見ている。稀に粉飾決算などが話題になるが、キャッシュフローはいじりにくいらしく(実際にお金を無から生み出せないから仕方ない)粉飾しにくいようで、そんな点でもキャッシュフロー計算書を見ましょうなどと話す人もいる)

□私個人としては、資産価値が年々積み上げられていくものが好きだ。しばらく赤字を計上していないものが良い。爆益よりも安全域を大切にしたいからだ。あまり赤字にならないために、今後も資産価値が順調に上がっていくと思われる企業で、割安な理由が理解可能で(コロナで一時的に業績がどうしても落ちてしまう、流動性プレミアムに乏しいため、会社のイメージが地味、劇的な成長を望めなさそうでせっかくリスクを取って投資する先として魅力に乏しく積極的な選択の対象にならないなど)、解除可能であれば良い。または解除可能でなくても何らかのきっかけで上昇するかもしれないと思えれば良い。極限まで割安であれば(注意してほしいのは、繰り返しで申し訳ないが、ここで話す割安は指標的な割安ではなく価値としての割安である。PBR(時価総額と資産の比)がいくつだから割安、という単純な話ではない。業績が一時的に振るわなくても、少なくとも赤字にはならないし、今後も資産価値がつみあげられていくことが予測されている。それにもかかわらず、一時的な要因でもともと割安であるのにさらに割安になっていて、事業価値が黒字なのに事業価値がマイナス評価になるくらいまで売り込まれている、そんな銘柄の話をしている。例えば最近までのSECカーボンがそうだった。)

 □解除可能な原因でなくても良いというのは、たとえば秋頃までの那須電機は資産価値に対してきわめて割安な状態で放置されていた。しかし、この企業は実際には5G関連企業であったし、水素吸蔵合金を手掛けていたので、何かのきっかけで暴騰する可能性が十分にあったし、その割に下値は資産価値を考慮すれば十分に割安なレベルだった。また、最近話題の親子上場解消関連銘柄も持っていればいつかTOB(買収されること)されるかもしれない。(しかし私はあまりその手の銘柄を持っていない。資産価値に比較して異常な割安さであれば購入を検討するだろうがまだあまり調べていないし、そもそも買い付け余力もない。)

□購入するタイミングは毎日回診して、何かをきっかけに上昇に転じたところをジャンピングキャッチでも良いのかもしれないし、タイミングについては私は詳しくないので分からない。下落トレンド中に買うことは一般的には推奨されていないので、相当価値の推定に自信がある人以外は見つけた企業を毎日確認して上昇トレンドになったところで購入した方が吉だろう。多くの場合は市場が決定した価格の方が正しいのだから。

 

■アートに自分のお金を掛けられるかという話

 □上記のように資産価値については推定をかなり理解の領域で語ることができる印象がある。一方で事業価値については、事業がどの程度成長するのかを推定するというのがアートの領域なのでなかなか手を出しにくい。事業価値についてはDCF法などで推定できるが、式を調べるとアートの領域が多いことがわかると思う。事業の成長率を推定しなくてはならないからだ。私は事業価値をDCFで算出することが多いが、大体はゼロ成長として計算している。また成長株で一時的に設備投資などがかさんだ場合で、フリーCFがマイナスになってしまうこともあって事業価値の推定が困難になる。とりあえず営業利益で代用したりしてみるが正しいのかどうかは分からない。計算するなら成長株の部類に入るものは数年間のX%の営業利益の成長とその後のゼロ成長を組み合わせて算出することにしている。しかしこの想定についてどれほど正当性があるのかは分からない。正当性がわからないものには大きくベットできない。私は賭けではなくて、堅実な運用をしたいからだ。

□また、私はテクニカルには疎い人間だ。テクニカルはチャートがどうなったから売買をどうする、といった類の売買手法である。テクニカルは損切の時にくらいしか使っていない。直近安値を下回ったら市場の判断がきっと正しいのだろうと思って損切する。また下降トレンドではなるべく買わないことにしている。(しかし購入してしまうこともよくある。)

□業績の推定が難しかったり自信が持てない場合に資産バリュー株の購入が正当化される。私はセンスに頼らずに理解に基づいた売買をしたい。資産価値が比較的大きくて、業績もまずまずしっかり黒字が出ているのに、時価総額から資産価値を除いた時の残り=事業価値がほとんど無視されている銘柄を購入している。必ずしも純粋な資産バリューではない銘柄はそのようにして選択されて購入したものだ。爆益を望むものは事業価値の推定に秀でることを目指すことを勧める。しかし、それは期待されていたほど事業の成長が大きくなかった時の爆損に耐えるだけのリスク許容度がある人間と利益の成長率の推定に自信があるものが目指す領域だと私は考えている。

メンヘラとシラットの達人

■前回のまとめ

□資産運用についての一つの正解:日経平均NASDAQといった指数と同じように値動きをするインデックスファンドを定期的に定額積み立てていく。株だけで不安な場合は不動産投資を間接的に行っているREITを組み合わせる。場合によっては国債や金価格に連動するインデックスファンドを購入する。株やREITはそれなりのリスクがある。自分のリスク許容度に合わせてそれぞれの資産の比率を設定する。例えば→日経平均連動投資信託20%、日本以外の先進国株式指数連動投資信託20%、国内REIT10%、海外REIT 10%、金10%、現金30%と最初に設定する。生活費を除いた手残りが毎月50万円あれば、それぞれ10、10、5、5、5万円を決まった日に投資していくイメージ。15万円は現金で貯金。年に一回リバランスする=最初に設定した割合になるように一部利確したり、その利確したお金で他の下がってしまったものを購入したりする。

□上記の方法が正解であるとする時に置いた仮定:効率的市場仮説が正しい。効率的市場ではみんなが適切な株価を知っている。株価は常に現状わかるすべての情報を織り込んだ上で正しい値段なので、新しくその会社に関するニュースが出るまで値段は動かない(ニュースというより輸出関連なら円高で動いたりするとかね。あるいは創業社長が急逝するとか。こういう何かが起こると株価が下がる。でもこんなものは予測できないから、ここでは株式投資はギャンブルになる。しかし、株式投資にはリスクプレミアムがあるので、平均的には儲けることができるはず。平均的には儲けることができるなら、多くの会社に分散投資するべきだ。だから投資信託が良い。そして上がるか下がるかは分からないであれば、人件費がかかっている分だけ、アクティブファンドは損だ。だからインデックスファンドを購入する。

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■市場は効率的か

□市場が効率的であれば、株式市場で勝ち続けている人はコイン投げのチャンピオン(コインを何回も投げて最も多く表を連続で出した人がチャンピオン、という競技があるとしたら株式投資のすごい人はこの大会の優勝者)と同じような存在だろうか? どうにも安定したパフォーマンスを出しているとしか思えない人がいる。きっと、株式市場で投げるコインをうまく選ぶことで、表が出やすいものを購入できるのに違いないのだ。そうとしか思えない。上記のインデックスファンドが最高という理論は軟弱な地盤の上に立っている。その地盤の軟弱さを解析することで、インデックスファンドの成績を上回るリターンを得られるはずだ。とすれば、我々の行うべきは非効率的な市場で正当ではない価格で売買されている企業の株を見つけることである。

■価値と価格

□結局のところ、みんなが安く買って高く売ろうとしている。しかし、株価が高いとか安いというのは一体何と比較しているのだろうか。おそらく、何か本質的なその企業の株の価値というものが存在していて、それより高い安いを言っているのだろうと思われる。考えてみると、株式投資は会社の一部を所有していることだ。つまり、会社の価値を計算できれば良い。存在する株数はインターネットですぐに調べることができる。

□例えば、100億円の価値があると思われる企業があってトータルの株数は1億株だとする。このとき適正な株価は100円になる。このような企業の株が50円で売られているとしたら当然買うべきだ。そういう企業を探す必要がある。

□しかし、企業の価値をどうやって算出するのだろうか。そして、どうして自分が算出した企業の価値より安値で市場ではその株が流通しているのであろうか。ひょっとしたらそもそも自分の考える企業の価値が誤っているのではないか。ある株を安いと言うということは、自分が推定したその企業の価値は市場が決定している株価よりも適切だと言えなくてはならないということだ。そして、そのように言えるためにはなぜ不適切な値段がついているのかも同時に説明できなくてはならないことになる。安いと思って半額の刺身を買ったら思いの他生臭かったなんてことはよく経験される。安いのには理由があるのだ。ひょっとしたら10%の可能性で生臭いかもしれないが、もし買ってみてそうだったら明日火を通して食べるから自分にとってはこのマグロの刺身は安いのだ、と言える時に初めてその怪しい半額のマグロを購入することができるのである。

 

 

 

 

 

 

■おまけ:指標の話(読み飛ばし可)

□少し株式投資をかじると、いくつかの指標が出てくる。PERとかPBRとかROEといった値がそれだ。ざっくりと、PERやPERが低いと割安といわれる。(実際のところ必ずしもそうではない。)これらの指標についてもしかし解説しておく必要があるだろう。

□ここで、悪い男の話をしよう。多くのメンヘラ女子を依存させて、夜の仕事に落としてきた架空の男の話だ。さて、今その男には二人の選択肢がある。メンヘラAはかなり実際かわいい。セクキャバで働いている。大体彼女が稼ぐのは毎年500万円程度だ。メンヘラBはパパ活で稼いでくれて、彼女は大学生で忙しいので大体100万円程度しか稼いでくれないだろう。ところで男はメンヘラと出会うために精神の不安定な若年女性が集まる怪しい新興宗教団体に加入していた。しかしメンヘラを闇の世界に落としすぎていたことが教祖にばれて、その右腕であるシラットの達人に1000万円を用意しないと頭皮を剥いでから斬首すると脅されてしまった。何とか1000万円をかき集めた男だが、どうにも元を取らないと損した気分である。ところが、AとBはお互いに面識があるようで、そうなるとここを二股することは現実的ではない。男はどちらの女性に貢がせるとより1000万円の損失を回復するためにコスパが良いだろうか?

□PERはそういう指標である。メンヘラAを選択は投資額(?)の1000万円にたいして、毎年500万円稼ぐ。この時メンヘラAが企業であったなら、PERは2倍になる。これはつまり、2年で元が取れるということである。メンヘラBはPER 10倍になる。たしかにメンヘラAの方が投資額(?)に対して割安である。また、メンヘラAは本当に精神が限界のようで、あと何年働けるか分からない。メンヘラBはそんなに実際つらそうにしていないし、何だか賢く生きている印象だ。パパ活をしているといっても一線は超えないらしい。PERで見て割安であっても本当に割安かどうかはわからない。今後も同じだけ稼げるとは限らないからだ。また、メンヘラAは美容整形のローンの返済があり年に500万円稼いでいるといっても男に貢いでくれる額はせいぜい100万円程度だ。いくら稼ぐかよりも、いくら自分の手元に結局入るのかを重視するという考えもありだろう。そういう考えの人は配当割引モデルなどでググると幸せになれるだろう。

□ちなみに、メンヘラBには2000万円の貯金がある。そして借金はない。この時メンヘラBのPBRは0.5である。2000万円の資産に対して、1000万円の投資は半分だからだ。メンヘラAは手元に現金がほとんどなく借金はあるので資産価値でみたら断然Bである。

□脱線しすぎた。つまり、株価に対して稼ぐ額を見ているのがPERで、資産の価値を見ているのがPBRだ。確かにそれらが低い方が割安のようだけれども、メンヘラAのように同じ額をずっと稼げないなら投資先として本当に割安なのか? と一歩踏みとどまって考えるべきなのだ。つまり、これらの指標を知っておくことは大切だけれども、これらの指標だけで売買することは適切ではないということになる。また、いくら稼ぐのかどのくらいの資産があるのかといったことは有価証券報告書決算短信といった企業が開示している資料をみると分かるのだが、この2人のメンヘラの内情のようなことー例えばいつまで稼げるのか、後で刺されるリスクはないのか、普通にいい子だから幸せになりそう、などーは数字だけからは見えてこない。そういう点についても当然意識する必要がある。

□では、企業の価値はどのように算出するべきだろうか。これにはいくつか方法がある。有名なものはdiscount cash flow法である。または、先程ちらっと書いた配当割引モデルでも良いかもしれない。簡単に似た企業同士を比較することも良いかもしれない。あるいはこれらを併用した方法でも良いかもしれない。いずれにせよ、何らかの方法で企業の価値を算出することが求められる。ただどの手法であっても数字は過去についてのものしか確定したものはない。また数字として載らない価値もなかなか探さないと見えにくい。超過収益力などと言う。見えている過去の数字だけではなく、未来の不確実性を伴った業績が現在の株価に反映されているので見えている数字だけみて割安かどうかを論じるのも愚である。見えない未来の数字を予測して、適正な割引率を設定する必要がある。そうはいってもひとまずは型通りにDCFだとかCAPMだとかWACCといった概念については理解しなくては何も始まらない。それをやりたくないのなら最初から個別株投資をやる意味がない。どうせ平均以上のリターンは期待できないし、得られたとしてもそれはただの運に過ぎないからだ。

□意外とそう考えると企業価値推定にはアートな領域が残るように思う。資産の評価に比べて超過収益力や未来の業績を数字として表現することが難しいからだ。だからわたしは計算が容易な無成長企業や資産バリュー株への投資が多くなる。センスによらない安定的なリターンを確保したいからだ。

株式投資の前に考えていたこと

■はじめに

□母方の祖父は当時の建設省に土木技術者として勤めていたから比較的収入が安定していたもののマネーリテラシーなどと言う横文字とは無縁な人であった。小金持ちになったことを示したかったのか、優待株だけ調べて沢山持っていたようだが、爆損をキメていた。また、近所の証券会社に行っておすすめの銘柄を聞いて半値にしてみたり、新聞にあった海外通貨建ての金融商品を見つけてのこのこと銀行に行ってこれまた資産を半値にしたりしていた。リーマンショックの時は底値で売ってそこでも数千万単位の損失を出していたと思う。それでも収入が安定していたので、資産9桁にはいかないものの日々の生活には困らないくらいではあったから、母子家庭としては裕福な方であった。残りの財産を今度は怪しいファンドマネージャーに全部預けて一文無しになった。ちなみに、私はシングルマザー家庭で、母は稼ぐ手段がなく、祖父の収入と資産に老後を依存するつもりであったから、これは大変なことだった。また、すでに離婚した父もマネーリテラシーが皆無なのかセルフネグレクトなのかは知らないが多額の借金を抱えているので、彼が死んだらすぐに相続放棄する必要がある。

□本業で稼ぐ能力があっても、マネーリテラシーが低いだけで、不幸な老後を送ることになることを知った。私の資産運用への圧倒的なモチベーションになっているのはおそらくこのあたりの経験だ。頭が弱いと、たったそれだけのことで努力しない悪人がやってきて他人が働いて稼いだお金をむしり取っていってしまう。

□もともと、私は極めて文系よりの人間で、得意教科は国語と英語だった。この二つは勉強しなくてもよかったし、そもそも勉強したとしても苦痛ではなかった。しかし、私が高校生だった当時は就職氷河期で、早慶程度を出ていても自動販売機のジュースの補充をしている人のニュースなどを耳にしていたし、結局何かしたいことがあっても、比較言語学者文化人類学者になったら飯が食えるのかとか言われていた。仕方なく、苦手な理系科目を集中力に乏しいADHDなりに努力して部活後に疲れて仮眠して夜に勉強して、地方のFラン医学部に進学した。得意な英語や国語はあまり活かすことができなかったし、今後も活かすことはあまりないのかもしれない。

□学生時代に医学に興味を持てたことは一度もなかった。本当に授業がつまらなくて苦痛だった。稼ぐために医師免許取りにきただけなので、成績はどうでもよかった。留年すると、生涯収入の最後の1年を失うので留年だけはしないようにしていたが、61点以上を取ることは無駄な労力と判断していた。つまらない学問に身をささげるなら、せめてコスパを最大化して人生を楽しみたかったからだ。

□結局、働き始めると、環境も良かったのか或いはテスト勉強と目の前の患者のプロブレムを解決することの間には思いのほか大きな違いがあったのか、存外楽しく仕事ができている。けれども、自分がしたかったのは本当にこの仕事なのかという思いはずっとある。科の選択に悩んでいたのも結局医者にそんなになりたいわけじゃなかったからだ。

□経済的に自由でないということは、不幸だ。マッチングアプリで裕福そうな人間が、飯を食えなさそうなことをのびのびやっているのが見えると不愉快だった。そんな時に指導医氏から資産運用でもやってみたらと本をもらったのであった。

□私はむしり取られ続けてきた。両親が離婚して、田舎に飛ばれて教育機会を奪われた。マネーリテラシーの低さから実家の金をむしりとられて裕福でなくなったから金のない親のために真面目に貯蓄をしなくてはならなくなった。バブル崩壊後に生まれてずっと不景気で、本当は他にも勉強したいものがあったのに安定した職業につかないといけなかったからなりたくもないのに進学の機会を奪われて医学部に進学した。顔もしらない悪い人に、両親に、時代に、奪われ続けてきたものを取り返さなくていけない。幸い私は生まれつき頭が良かった。これだけは奪われない。奪われずに最後に残ったものを使って人生を取り返すのだ。自分の生きたかった人生を取り戻す戦いなのだ。

 

■効率的市場仮説・ランダムウォーク理論

□『はだしのゲン』を小さい頃に読んでいた。原爆で重症熱傷を負ったお金持ちの画家志望の男性の世話を主人公がするというシーンがある。血便を垂れ流し、親族からは原爆の毒がうつると疎まれてしまう。たしか、その時の給料が一日3円程度であった。しかしここに注釈が付いていて、当時の1円は今でいう1000円でといったような解説がついていた。

□ここ最近は特に日銀はお金を擦り続けている。不景気だ、金融緩和だ、みたいなニュースはたまに見るけれど、じゃあそれが私と何の関係があるのだろう、という感じでいた。結局、金を刷って金利を減らして、タンスにいれて放置するな、円の価値を下げるぞ、だからどんどん投資して消費しろ、というメッセージだったのだ。銀行に入れた円の価値はどんどん減っていく。現状では毎年2%のインフレ率が目標とされている。つまり少しずつ物価があがり、現金の価値は希釈されていくことになる。

□100万円が今手元にあっても来年には98万円分の価値になってしまうなら、なるべく価値が減衰しないものに変えておきたいと思うのが普通の反応である。金(ゴールド)でも株でも社債でも国債でも不動産でも何かしら別の形に変えておきたい。しかし、それは私以外の人だって気が付いているはずではないのか? みんなが同じように例えば金に換えてしまいたいと思ったら金の価格はどんどん上がってしまう。毎年2%ずつ円の価値が下がることが100%確定していて、金の価値が一定なら円での値段は2%ずつ毎年あがっていく。円は発行できるが、金は無から作り出せないからだ。ずっと先の未来まで考えた時にそれでは現在の金の適切な値段というのは一体何なのだろう。毎年確実にどんどん円換算での値段があがっていくなら、ゴールドの現在価値は無限大に発散する。じゃあ全部ゴールドにしてしまえ! そんなことにはならない。これはきっと、100年後まで2%ずつ値段が上昇する可能性が90%で、10%の確率で国が政策を転換してしまうあるいは金自体に価値がなくなってしまうかもしれない、などと言った不確実性をはらんでいるからだと気が付いた。これを割引率という。上がる確率と下がる確率、それらの不確実性が組み合わさって、売買したい人たち(そこには沢山のプロがいる)が今の価格を決めている。国の方針が変わりました! みたいなニュースがでると前提が崩れて確率が変動し、現在の値段が動くことになる。それじゃあ予測なんかできないじゃないか……。予測ができないものに投資して一体どうするのだ。上がるか下がるかわからないならギャンブルじゃないか、そんなものに私の一生懸命かせいだお金をつぎ込みたくない。みんなが正しい判断をして、今の値段が適切で、何か新しいニュースやイベントが起こると、値段が変動する。新しいニュースは予測できないので値動きは完全にランダムになる。みんなが正しい判断をして、正しい値段を付けているという仮定を、効率的市場仮説と呼んでいる。何かしら新しいイベントが起こっては値段が動くというランダム性についてランダムウォーク理論などとかっこよく呼ぶこともある。

 

プロスペクト理論とリスクプレミアム

□勝敗が決まるまでじゃんけんを行って4回連続で勝ったら32万円もらえるゲームの参加費が1万円だったとき、もしもお金持ちであったなら適切なトライの回数は無限回だ。(∵E(賞金)=1/16×32万円-15/16×1万円>1万円)けれども4回連続で勝つのって稀だし、試しに10回やってみて10万円失う確率も(15/16)^10=52%あることを考えると結構しんどい。10万円うしなったら血涙流してこの提案をした人に私は掴みかかるだろう。そして2度ともうこんな提案には乗らないと決意するだろう。

□人は損失を大きく感じてしまうようにできている、ということをプロスペクト理論などと呼ぶ。つまり、先ほど私は適切な値段って何なのだろうと考えていたけれど、価値が減るかもしれないと思うとそれを買うことをためらってしまう特性がヒトにはある。市場での価格というのはヒトが決定しているので、リスクがある商品というのは実際の価値に比べて割安になる。割安にならないと誰もその商品を買いたくないからだ。購入したい人がいないと値段が下がる、ある程度まで下がるとリスクを考慮しても購入して良いかなという人が現れ始める。そこで価格が均衡する。リスクのある資産はある程度割安でリターンが大きくないと誰も購入したくない。プロスペクト理論によって、本来の価値よりも割安になり本来の期待されるリターンよりも高いリターンを要求できることになる。この本来の価値との差をリスクプレミアムと呼んでいる。

 

■インデックスファンド

□これまでの記載から勝ち方は見えている。効率的市場であってもリスクプレミアムがあるから長期的にはリターンはプラスを中心に正規分布するはずだ。勿論それを上回るリターンを得たいと思うなら効率的市場仮説が破綻している時に本来の価値よりも割安になったものを購入することだ。効率的市場仮説がそもそも成立していないものを購入するのでも良い。それはプロが参入しにくい誰も名前を知らない小型株だったり(機関投資家は運用額も大きいかなかなか小型株に手を出さないだろう)地味で夢もないし積極的に購入したくなかったり(価値より割安になりやすいだろう)といった銘柄になる。または、一時的要因からここしばらくの業績が悪いことがわかっており悪い業績を反映した株価が付いている時にシクリカル銘柄を購入するのでも良いかもしれない。こういう時はつまり高いリスクプレミアムが付与されているからだ。(しかし落ちるナイフを掴むことは一般的には推奨されない。)

□ただ結局のところ、プロが多数参加している中で自分だけが正しい判断をしていて市場参加者が誤った判断をしているのだと断言することに実際は極めて高い心理的ハードルがある。そこに心理的ハードルを感じないのは自身を客観的に評価できない愚か者か極めて優秀な人間だけであろうし、株式投資をはじめたばかりの人間が前者である可能性はゼロだ。そこまでしなくても、平均的にそこそこのリスクプレミアムを享受したい。平均的にはプレミアムがつく分、株式市場に参加をしていればお得なのだから……。

□そんな時に良いのはインデックス投資信託なのだと思われる。投資信託というのは、株などの詰め合わせパックである。プロのおすすめパックはアクティブファンドなどと呼ばれる。一方で、日経平均などの決まった銘柄の詰め合わせパックをインデックスファンドと呼ぶ。違いは人件費だ。アクティブファンドではプロが選んでいるので人件費がかかる。しかし、効率的市場仮説を信じている人にとってはこの人件費は無駄なものに見えるだろう。彼らにとって株価はランダムに動いて予測できないのだから。そしてその事実は概ね正しい。アクティブファンドはインデックスファンドに負けることも実際多い。だから人件費がかからない分手数料も安いインデックス投資信託であれば、資産が減るかもしれないというリスクをとってリスクプレミアムを享受できるし長期投資として良いと言える。実際に、過去何十年分のリターンをみてもゴールドなどよりリスクの高い株は高いリターンを長期的に達成している。多くの場合には効率的市場仮説が成立しているし、ランダムに株価が動くと信じている人にとっては、予測できない株価の上下を予測しても仕方ないのだから、リスク資産に分散投資して平均的にはリスクプレミアム分のリターンを得られれば良いという考えには正当性がある。しかもインデックスファンドでは数百の会社に分散投資しているので、一つの会社に投資しているよりも少しリスクが低い。

□実際のところ、効率的市場仮説はある程度正しいように思われる。これ以上勉強したくない人にとっての正解はこれで見えたことになる。インデックス投資信託を毎月決まった額購入していけばよい。株だけで心配ならもう少し分散させると良い。REITと呼ばれる不動産投資を間接的に行う商品や、海外の株やREITにも分散させる。現金もある程度欲しいかもしれない。例えば、毎月の給料から生活費を除いた手残りについて、25%を日本の株のインデックス運用投資信託、25%を日本以外の先進国株のそれ、10%を国内のREIT、10%を海外のREIT、5%をゴールド、25%はいざという時のための現金とする。購入する額は決まっているので、割高な時には少ししか買えない。割安な時には多めに購入できることになる。ドルコスト平均法などと言う。

□年に一回程度リバランスを行う。同じ比率で購入し続けていても、値段が動くので日本株価が暴落すれば25%ずつ購入していたのに、比率としては20%くらいに下がっているかもしれない。そうしたら5%分を追加で購入する。25%毎月現金を増やしていたはずなのでその現金で購入してバランスを元に戻すのだ。自然と安くなっている時に安いものを購入できることになる。最低限の勉強で済ませたい人にとっても正解はおそらくこれである。

 

■個別株投資へのいざない

□しかしわたしは人生を取り戻すために資産運用をしているのだ。上記のインデックスファンドの運用には大した知性が必要ない。私は勉強が得意だ。特技があるならそれを利用してお金を増やさなくては機会損失になる。世の中の投資家の中で成功している人たちはランダムウォークする株価で偶然に莫大な利益を得たのだろうか? どうもそれだけではない気がする。再現性があるとしか思えない人間が一定数存在しているからだ。どうしたらインデックスを上回る成績を出せるのだろうか。